*写真はイメージ

(富山大学名誉教授:盛永審一郎)

 ヨーロッパの教会を訪れると、そのステンドグラスの美しさに魅了される。パリのサント=シャペル教会のステンドグラスには、創世記から始まり、イエスの生涯が、1枚1枚に描かれている。マインツの教会で見たシャガールのステンドグラス。どれもその壮麗さが見る者を圧倒する。

 その中で、ステンドグラスに死の輪舞を描いたものがある。ベルリン、リューベック、ベルンなどにあるカトリックの聖母マリア教会である。

 もともとは壁にフレスコ画として描かれていたもので、ベルリンの聖母教会では、復元されて、展示されている。ベルリンは、死んだばかりの遺体が、人々を輪舞に誘う絵なのだが、リューベックではもうそれが骸骨になっている。その不気味な死体が、人々を踊りの輪に誘っている。

ベルリンの聖母マリア教会に所蔵されている「死の舞踏」の絵画(筆者撮影)

 13世紀ごろフランスのお墓で真夜中に踊り狂うという民間信仰に由来するものらしいが、14世紀中ごろヨーロッパの人口を3分の2に激減させたペストの大流行とも関係している。ペストはだれかれ構わず死へと誘ったのだ。

死は誰にでも平等にやってくる

 この絵が意味することは二つ、一つは人の死期は予期できないこと、もう一つは死は平等であること、生まれたばかりの赤ん坊であれ、司教であれ、泥棒であれ、だれかれ構わず死は踊りの輪に誘うということである。「死の恐怖」とともに、「死の備え」を人々に訴えるものと言われている。だから、この絵も、同様に教会に掲げられている「メメント=モリ(死を忘れるな)」の絵の一つに数えられている。

ドイツの都市ヴォンドレプにある聖堂の上天井に描かれた「死の舞踏」(ウィキペディアより)

 しかし私は単に、それだけではないと思う。ペストが町を、そして人々を襲い、死体が次から次へと山積みにされていく。その様相は、まさに死の輪舞として人々に受け止められたのだと思う。単に人はいつかは死ぬ、だから日常の生活に興じてこの事実を忘れてはいけないということだけではすまされないのだ。明日、あるいは明後日に、死ぬかもしれない、その差し迫りくる死の恐怖をもって、黒死病のパンデミックという歴史的事実を茫然となすすべなく人々は見つめていたのだろう。まさに、コロナ禍の現在、私たちが体験している、異常なそこはかとない死の恐怖と通じているであろう。