(写真はイメージです/Pixabay)

(福島 香織:ジャーナリスト)

 最近、ちょっと不穏なレポートがでた。カナダ・トロント大学傘下のサイバーセキュリティ研究機関「シチズンラボ」が出したレポート「あなたのおしゃべりを、彼らは見ている」。中国のネットユーザー9億人(うち99%以上がスマートフォンユーザー)のほとんどが愛用している「微信」(ウィーチャット)のチャットに対する“ビッグブラザー”中国共産党の監視についてのレポートだ。

 微信は騰訊(テンセント)が開発したメッセージアプリで、中国で最も愛用されているSNSである。ビジネス、学術、文化、なんであれ、多少なりとも中華圏と接点がある外国人も、このアプリ無しには1日が過ごせまい。微信で利用できる電子マネー「ウィーチャットペイ」は日本でもコンビニ、タクシー、書店、果ては一部大学の授業料振込まで利用できるとあって、中国とかかわりのない人も使っているかもしれない。

海外ユーザー同士のやり取りも監視

 微信が中国共産党の監視ツールであることは、もともと指摘されていた。その証拠に、政治的にデリケートなワードや図像は相手に届かない。また、グループチャットの発言がもとで逮捕されたり拘束されたりした例は多々ある。新型コロナの問題に早々に気づき、微信のグループチャットで発信した武漢の眼科医・李文亮が翌々日に警察の取り調べを受けたことを見ても、それは分かるだろう。

 だが、それは中国国内での中国人同士のやり取りだけだろうと思われていた。だがこのシチズンラボの60ページほどのレポートには、私たち海外ユーザー同士のやり取りのメッセージや図像も監視され、さらにそれが、削除されるだけでなく、フラグ付けされて分類され、“資料庫”に保存され、中国国内ユーザーの監視強化に利用されている、という。レポートの副題には「微信国際ユーザーはいかに意識せずして中国のセンサーシップ(検閲)に加担しているか」とある。

 例えば海外のユーザー同士で中国の政治的な話題についてやり取りし、その時に使われた画像などを中国国内ユーザーに送ろうとすると、送れなくなる。ユーザー同士のやり取りを監視していなければ政治的な意味を見出すことが難しいような画像でも、削除対象になってしまう。それはすなわち、海外のユーザー同士のやり取りの段階から監視していたことに他ならない。

 レポートによれば、微信の検閲は海外で登録したユーザーも対象で、文字だけでなく、写真や図、イラストなどの図像にまで及んでいる。しかも通信内容が削除されるだけでなく、ブラックリストがつくられて、さらにそれを中国国内の検閲アルゴリズムに利用されるという。