朝倉:さすがです。佐々木さんって、freeeを立ち上げる前にもご自分で商売とかされていたんでしたっけ?

佐々木:私の商売の歴史は古いですよ、高校生の時まで遡りますから(笑)。

朝倉:高校生がいったい何を商売にしたんですか(笑)。

佐々木:学生かばんですよ。私の高校には学校指定のかばんがなかったので、「じゃあ自分で作って売っちゃおう」と(笑)。

朝倉:そういえば、そのエピソード、どこかで読みましたよ(笑)。でも納得しました。佐々木さんのように自分で商売というのをしたことがある人には、本当の意味でのファイナンス的なセンスが備わっているのでしょうね。

佐々木:センス? ああ、なるほど知識やスキルというよりもファイナンスはセンスが重要ということですね。

朝倉:そうなんです。私にしたって零細スタートアップを経営したり、赤字上場企業の再生を担ったりして、今ではスタートアップの成長支援や投資事業に取り組んでもいますが、ではファイナンスについてどこかの学校できっちり学んだり、企業で経理や財務をした経験があるかというとそうではない。

 結局のところファイナンスって商売にかかわるお金の動きのことですから、座学よりも、それを体感した人の方が勘所をつかみやすいのではないかと思うんです。

佐々木:会社から毎月給料をもらうという生活ではなくて、物を仕入れて、それを売って、手に入れたお金でまた何かを仕入れて、という体験ですね?

朝倉:商売を自分でしたことがなくて、大企業などにお勤めの方の場合、どうしても「コストをなるべく減らして」という発想になりがちじゃないですか。だって給料は基本的に毎月同じ、つまり入ってくるお金が一定で、何かに投資することで給料がはね上がるということはない。

 だから、家計とのアナロジーで考えてしまうと、必然的にコストを削減して、目の前の利益を積み重ねていくという発想になってしまいますよね。

佐々木:確かに、ものすごくシンプルなPL発想になりがち。売り上げが増えないならコストを減らせばいい、という。

朝倉:ですから、中小企業の経営者の方であっても、ご自分が最前線で商売を回してきた経験を持っている人は、どこかで専門知識を学んだわけではなくてもファイナンスに関するセンスが身についているケースが多いんじゃないかと思っています。

 そういう経営者は「うちは赤字じゃないから問題ありません」みたいなことは言いませんよね。長期的な視野に立って、今ここにこういう投資をしておくことで、それがいずれ収益に変わっていくんだというような発想を感覚としてセンスとして持っている。