朝倉:いや、そうですよ。だからTechCrunch のピッチで佐々木さんからfreeeの機能について聞いた時にも、「こんなに自動化が可能になるツールをオンラインで使えるようになったら、どれだけ楽か。浮いた時間でもっと前向きに経営の課題について考えることができるようになるじゃないか」と実感したわけですし。
佐々木:私の場合、freeeを立ち上げた時には一定の投資をしてもらってもいましたし、「1年半くらいは無給で働いてもなんとかなる。それでもうまくいかなかったら会社を解散すればいいや」くらいの気持ちだったんです。ただ、ベンチャー企業でCFOをしていた時には朝倉さん同様、毎日「あのお金をこう動かして、それがうまくいかなかったら、最悪の場合、役員報酬を削らせてもらって」みたいなことは考えていましたね。
朝倉:ただし、経営に携わるからには日々のことばかり追い掛けているわけにはいきませんよね。私自身、ミクシィのCEOになって再生を託された時には、浸水して沈みゆく船を操舵しつつ、同時に新しい船も作っていくという、そんな発想で切り盛りをしていました。
四半期や年度ごとのPLに頭を悩ませてばかりいるのではなく、「その施策が将来にわたって生み出すキャッシュフローを最大化するのかどうか」を意識しながら手を打っていかないと船は沈んでしまう。おそらく今、中堅・中小企業を経営しているか方々の多くも、そういう危機感を持っているに違いないという思いもあって『ファイナンス思考』も書いたのですが、佐々木さんはどんな成長戦略を構想していらしたのでしょうか?
成長に不可欠なファイナンスのセンスは、商売の基本が教えてくれる
佐々木:創業時は、スモールビジネスの方々に使ってもらえる会計ツールを仕上げていきながらインターネット上に展開して、とにかく認知度を上げて使ってもらうことに気持ちがいっていました。言ってみれば、どこまでばらまけるか、という発想です。
でも、この施策だけではビジネスとしての成長に限界があることは分かっていましたし、フリートライアルで使っていただいた方に、どう働きかければ有料で契約してもらえるかを追求する過程で、きちんと営業組織を持とうというタイミングが来たのです。起業から3年目くらいの時でしたね。当然、人を増やして、ノウハウを整えて、成果につなげていかなければいけませんから、お金も手間も掛かります。
ただ、こうした打ち手が回り始めることで「1件の成約にどれくらいのコストが掛かり、それによって利益がどう増えていくのか」が見えてきますから、単にネット上にばらまいていた時よりも地に足の着いた成長戦略を描けるようになりました。その後も、事業が新しい節目を迎える度にfreeeは資金調達を得ることができましたし、おかげでここまで成長することができたのだと思っています。