イランのモスク

 米国とイランの間の緊張状態が昨年末から急速に高まっている。

 昨年の12月27日には、イランがイラク北部のイラク軍基地を攻撃して米国民間人1人が死亡し、米国軍兵士4人が負傷した。

 12月29日には、米軍がイラクのシーア派武装組織の拠点を空爆し、5カ所で少なくとも25人が死亡した。

 さらに、12月31日には、イランがイラクの首都バグダッドにある米国大使館を襲撃するという事件が発生している。

 今年1月3日付の『ロイター通信日本版』は、「イラク国内では、米軍部隊が駐留する基地に対しイランの支援を受けた組織による攻撃が増加、その手段も高度化している。ある米軍高官は昨年12月11日、あらゆる当事者が統御不可能なエスカレーションへと追いやられている、と語った」と報じている。

 米国は、そのエスカレーションの元凶となっている中心人物を、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」を率い、イランが国外で支援している中東各地のシーア派武装組織のテロや破壊活動の総指揮をとっていたカセム・ソレイマニ司令官とみていた。

 ついに今年に入り1月3日に、米軍はイラクの首都バグダッドでソレイマニ司令官を殺害した。これに対する報復として、1月8日にイランが弾道ミサイル攻撃をイラク国内の2カ所の米軍基地に対して加えた。

 同8日にウクライナ機が撃墜され乗客176人全員が死亡するという事件も起きている。今後の中東情勢がどこに向かうのだろうか?

米国とイランの緊張状態
当面どうなるのか?

 ソレイマニ司令官の殺害について1月3日、イラン政府は「厳しい復讐」を誓ったが、これに対しドナルド・トランプ米大統領は、「戦争を始めるためでなく、止めるため」だったと述べている。

 またトランプ大統領は8日、イランのミサイル攻撃については、米国人やイラク人の人的被害はなく、わずかの損傷にとどまったとし、「イランは戦闘態勢から引く様子だ」と語っている。

 米国は10日にイランに対する追加制裁を公表しているが、軍事報復については言及されていない。これらの対応には、イランとの新たな軍事衝突は避けたいとのトランプ大統領の意向が反映されている。

 米国はいま、北朝鮮の核開発をめぐり北東アジアで緊張の火種を抱えている。

 また、次期大統領選挙を控えて、トランプ大統領としては、中東でもイランとの新たな戦端を開き、19年間戦い続けてまだ解決の見通しの立たない中東での泥沼のテロとの戦いをさらに拡大することは避けたいと思われる。