意欲的なスポーツカーは、いかにトヨタのクルマづくりの哲学を変えたのか──。世界初公開されたGRヤリスをスポーツジャーナリスト・田邊雅之氏による試乗記と開発者へのインタビューをお届けする。
トヨタ自動車にとっての新たなプレジャー
GRヤリスは、レーシングドライバーにさえもドライビングプレジャーを与えてくれる。高性能なスポーツカーこそが、実は最も安全なクルマなのだ。
前編で紹介したレーシングドライバーの脇坂寿一や斎藤尚彦(TGR GRプロジェクト推進室)の言葉は、まさに目からウロコだった。
試乗会ではもう一つ、強烈に印象に残ったことがあった。TGRのスタッフ全員が目を輝かせ、嬉しそうにGRヤリスについて語ってくれたことである。
現に斎藤は、取材陣にマイクを向けられる度にこう繰り返した。
「GRヤリスは、トヨタ自動車が20年ぶりに自社の工場で開発や製造をしたスポーツカーです。私は入社20年目になりますが、こんなクルマの開発を担当させていただけるなんて夢にも思っていませんでした。チームメンバー全員、豊田社長と副社長の友山さんには感謝しかありません。ここに来るまでの道のりが大変だったので、正直、感慨深いものがあります」
新製品のお披露目は、どの企業のどんな開発スタッフにとっても晴れの舞台である。だが一企業人としての立場を離れ、これだけ「個」の喜びが伝わってくるケースは決して多くない。
斎藤たちの晴れがましい様子は、子供の入学式に立ち会う父母の姿さえ連想させた。
GRヤリスはトヨタ自動車の社員一人ひとりにとっても、モノを作る喜びを再発見する触媒になっているのではないか・・・。
ふと浮かんだ疑問を確かめるべく、斎藤を急いで呼び止める。再び水を向けると、斎藤さんはピカピカに光る我が子の傍らで、熱っぽく語ってくれた。