「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は「お金の価値を維持する」という観点で投資について考えていきます。

 さて、のっけから「おお!」というタイトルで、一番、驚いているのは読者の皆さまよりも編集部の皆さまかも知れませんし、陰でサイトを支えてくださっているスポンサー各社かも知れませんね。

 ところで。そもそも投資を行うに当たり、「なんとなく」とか、「先輩や友人がやっているから」、あるいは「金融機関やファイナンシャルプランナー(FP)のアドバイスや指導に従って」という方が、ほとんどなのではないでしょうか?

 では、読者の皆さまは、投資は何のためにするのでしょうか?
目的のない投資は、「ゴールのないマラソン」を走っているのと同じですよ。
 投資を続けることがつらく、時としていらいら、モヤモヤしながら、息切れをしている方もいるのではないでしょうか?

マラソンマラソンは、ゴールがあるから走れる

投資の目的は「お金の価値を維持すること」

 「お金の価値を維持するって、何なの?」という読者の方は、恐れ入りますが、拙稿の1~3回目までをご笑覧下さい。
 「銀行の預金だけでは、物価の上昇に(お金の価値が)負けてしまう!」という趣旨のことが書いてあります。

 では、「お金の価値を維持するため」には、どのような投資を行えば良いのでしょうか?

 先ほど、投資をマラソンにたとえました。マラソンのランナーたちは、目標となるタイムを設定すると思います。投資も目標が大切です。投資で得るための成果、すなわち目標となるリターンを設定することを検討しましょう。

「お金の価値を維持する」ための投資のリターンとは?

 「お金の価値を維持するための投資」では、リターンの設定には以下の計算式が参考になろうかと思います。

投資で得る1年当たりのリターン(%)= インフレ率 - 定期預金の利率

 リターンとは「(投資したお金に対し)増えた率(%)」といえば、イメージをしやすいでしょうか?

 また、インフレ率とは、前稿までに述べてきた消費者物価指数の上昇率、つまり「1年で物価がどのくらい上がったかを表す倍率」のことです。

「投資で得る1年当たりのリターン」は何%を目指しますか?

 筆者はこれまで、日本のインフレ率について3回にわたって書いてまいりました。

 拙稿の1回目では、2018年の我が国のインフレ率は1.0%と書きました。

 同じく2回目では、日本銀行は毎年2%の安定的なインフレを目指しているものの、目標の到達には程遠い「見果てぬ夢」とも書いています。

 そして、3回目では、日本銀行の目標に関わらず、将来は日本銀行の目標2.0%を上回るインフレ率もあり得ると書きました。

 以上のことを踏まえたうえで、「お金の価値を維持する」ことを目的に投資を行うとしたら、読者の皆さんは、何%のリターンを目指しますか?

 我が国のインフレ率はこの先も1%前後で推移するのか、あるいは日本銀行の目標通り2%となるのか、もしかしたら本当に2%を大きく上回るインフレになるのか……。
 折衷案と申しますか、拙稿の真ん中をとり、日本銀行が目標とするところのインフレ率「2%」を、読者の皆さんにとっての「投資で得る1年当たりのリターン(%)」としましょう。

 続いては「2%のリターンを目指すために、投資の資金を何に投じるのか?」という相談になろうかと思います。

「リターン2%」を得るために、何に投資をする?

 一口に投資とは言っても、様々な投資先があります。
 例えば、不動産。あるいは、株式・債券・投資信託などに代表される金融商品。
 本稿では、サイトの趣旨に則り金融商品について見ていくことにします。

メニュー2%の運用利回りを目指すために、どの投資先を選ぶべきなのか?
もし、投資に教科書があったのなら

 さて、もし、投資の世界に教科書があったのなら、金融商品は以下のように仕分けることができると思います。

株式や債券……伝統的な投資資産
REIT(不動産)やコモディティ(金、原油などの商品)……代替的な投資資産

 この教科書に沿うならば、「伝統的な資産」に位置付けられている株式や債券に対する投資こそが、オーソドックスな投資ということになります。

 「ん? では、投資信託は?」。
 投資信託は、先述の投資資産をひとまとめにしたパッケージ商品に過ぎません。投資信託については稿を改めて、紹介します。

オーソドックスな投資、株式と債券の違いは?

 先ほど、オーソドックスな投資として株式と債券を挙げましたので、その比較を試みてみました。

  株式 債券
満期 ない ある
満期時には額面で返してくれる
貸借対照表では 自己資本 他人資本
インカムゲイン
(保有中の利益)
配当金
(約束はされていない)
利息
(発行時に約束されている)
キャピタルゲイン
(売買益)
損益のどちらもあり得る 損益のどちらもあり得る
最悪のケース ゼロ ゼロ
発行者 企業 政府、地方自治体、企業など
債券とは?

 債券は、政府や企業などが事業に必要な資金を調達するために発行するものです。政府が発行するのが国債、地方自治体が発行するのが地方債、そして会社が発行するのが社債です。

 会計のやや専門的な話になりますが、もともと債券は貸借対照表では「他人資本」に分類され、一般のローンと同じように満期もありますので、発行する企業などにとっては「借金」としての意味合いが強いです。

 債券に投資する側にとっては、債券を満期まで持っていれば、その間、発行時に約束された利息を受け取ることができます。そして、満期には額面金額で、お金を返してくれる約束になっています。
 もっとも満期までの間に売却する場合には、債券価格の変動があるので、債券価格によっては利益になることもあれば、損失になってしまうこともあるのです。

 ただし、債券の発行者の経営がよろしくなければ、利息の支払いが遅れたり、額面金額でお返ししたりという約束を果たせないこともあり、投資した人が損をしてしまう可能性もあります。

株式とは?

 株式も債券と同じく、会社が資金を調達するために発行します。
 ただし、債券とは違って貸借対照表では自己資本に分類され、株式を発行することで集めた資金は、株式を買った投資家に返す必要のない資金です。だから「自己資本」と呼ばれます。

 株式に投資した人は、株式を持ち続けている間、つまり株式を売却するまでの間に決算日を迎えれば、「配当金」をもらえる可能性があります。配当金は「利益の分け前」です。利益は「会社の成長の証」と言っても良いでしょう。つまり、配当金は「会社の成長の分け前」とも言えます。

 株式に投資する側にとっては、満期がないので、いつまでも持ち続けることができますが、現金化(=換金)したくなったなら、売るしかありません。
 が、もし「会社の成長が長きに渡る」と考えたら、現金化したい気持ちを我慢して、ずっと持ち続けても良いかも知れません。会社の成長を反映するであろう株価が上がり続ける可能性があるからです。

 しかし、会社の成長はたとえ今が好調でも、いつまでも続くとは限りません。会社の経営状態が一度悪くなってしまうと、株価はどこまで下落するか分かりません。債券と異なり、満期がなく、額面で返すなどの約束もありませんし、利益の分け前に過ぎない配当金も決して約束されたものではありません。

 ちなみに、アメリカの代表的な会社の一つ、アマゾンは利益の有無にかかわらず、これまで配当金を出したことはありません。

 株式投資は会社の成長の分け前に預かる機会を得ることができるものの、同時に高いリスクを併せ持つことにもなるのです。利益も損失も、株式は債券と比べて大きくなりやすい性質があります。

まとめに代えて

 「投資で得る1年当たりのリターン2%」を得るために、何に投資をするのか? という問いに対して、株式と債券という絞り込みを行うことができました。
 とは言っても、株式と債券、その数は膨大です。
 本年10月25日時点で、東京証券取引所の第一部だけで2155もの会社の株式に投資をすることができます。また、海外にまで視線を注げば、その数はもっと多くなります。この中から、2%のリターンを得られる株式や債券の投資対象や、その方法を選ぶ必要があります。

 「投資で得る1年当たりのリターン2%」を得るために、何に投資をするのか?
 その絞り込みの方法を、次回で考えてみたいと思います。