渋澤 健
コモンズ投信 取締役会長
新しい元号「令和」が発表された次の週に、財務省がお札のデザインを刷新し、新一万円札に渋沢栄一の肖像が採用するという発表がありました。私は驚きました。渋沢栄一は私の高祖父、つまり、おじいさんのおじいさんだからです。
どこかで聞いたことある名前、昔に教科書で読んだことある人という印象しか持たない人も多いと思いますが、渋沢栄一は「日本の資本主義の父」といわれる人物です。日本初の銀行を始め、500社ぐらいの会社の設立に関与し、また、600ぐらいの学校法人、病院、社会福祉施設や民間外交団体などNPO・NGOの設立にも関わりました。「価値があるお金の使い方」の達者でした。
その渋沢栄一の思想を現代社会に応用しながら、ミニ・シリーズを通じて4つのお金の使い方について、ご一緒に考えましょう。
モノやサービスの価値を比べる「尺度機能」
まず、今回は一つ目のお金の使い方について、「消費」です。自分が欲しいと思うモノやサービスと交換するお金の使い方です。このお金の「交換機能」によって、人類は物々交換の経済から大発展を遂げて、社会や文明を築くことができたのです。
また、お金には「尺度機能」があります。自分がお気に入りの同じモノを買うことに迷っていた前のお店より、こちらのお店が提示しているお値段が安ければ得した気分になりますよね。お金の尺度機能によって買い手である消費者や売り手である販売者との力関係のバランスを保つことができるのです。
あるいは、自分が欲しいと思うけれどお値段が少々高いモノと比べて、自分が必要と思っている性能がそろっていてお値段が手頃なモノを比べるための尺度というお金の使い方もあります。
つまり、お金とは自分が良い、欲しいと思っているモノやサービスの価値を他と比べられる便利なツールであります。
ただ、この「価値」について気をつけてほしいことがあります。お値段が高いと、「価値」があると思ってしまいがちだということです。これに加え、「皆さま、購入されています」「人気があります」とささやかれると、自分が割高と思っていたお値段が「まあ、良いかも」と安く見えてしまうことがあります。
お金の使い方について大切な心構えは、自分にとって大切な価値とは何であるかという考え方を研ぐ意識です。値段が高いから良いとは言えない場合があり、むしろ、自分が良いと思っている価値より値段が割安の状態が消費者として良いのです。当たり前のことですよね。
覚えていただきたいことは、お金の経済的な価値とは相対的であること。お金はモノやサービスとの交換や、その価値を比べるための存在だということです。
インフレは消費を促し、デフレは消費を鈍化させる
そして、お金には「時間軸」という概念が内在していて、今と将来を比べる尺度としても使えます。
モノやサービスの今の値段より将来は上がっている、つまり物価が上昇するのであれば、将来より今のうちに買った方が得です。だから物価上昇、つまりインフレは消費を促します。
消費が促されば生産者は生産量を高め、消費者から入るお金も増えるので雇用者や給料を増やすこともできて、収入が増えた雇用者が消費者となり消費が刺激されます。「価値があるお金の使い方」には消費が不可欠であるということがおわかりだと思います。
一方、物価が下落するデフレ状態になると歯車が逆転します。将来のお値段が下がると思えば、消費者は「もうちょっと待っても大丈夫」という心理状態になります。消費が鈍化すれば、生産者は生産量を下方調整する必要があり、人員の需要も減り、賃金も上がりません。だから、日本の長年のデフレ状態からの脱却が必要という声が上がるのです。
しかし、インフレが善でデフレが悪ということでもありません。過度なインフレになれば物価上昇に賃金上昇が追い付かなくなり日常生活がきつくなります。一方、過度のデフレでは経済が停滞して雇用者が職を失う場合もあります。ただ、穏やかなデフレの場合は、焦らずに色々な選択肢から自分の値ごろ感に合ったモノやサービスから購入できるという、消費者にとってメリットもあります。
今の日本は、どちらかと言えば後者の穏やかなデフレです。ただ、見えないところでインフレの芽が出てきていることに注意を払いましょう。値段が上がっていないけれども、以前より量が減っている商品も見かけますね。
次回のお金の使い方でご説明いたしますが、急激なインフレ、つまり、お金の価値が相対的に著しく減るリスクも実はくすぶっているのです。