レストラン「AJIKURA」の外観(AJIKURAのフェイスブックより)

 島根県の山間地域に位置する邑智郡邑南町(おおちぐん・おおなんちょう)は、人口約1万人・高齢化率40%を超える町だ。どこにでもある田舎のようであるが、この町には飲食店が次々とオープンし、年間90万人もの観光客が訪れている。その仕掛け人が、町役場に勤める寺本英仁(てらもと・えいじ)氏だ。「プロフェッショナル仕事の流儀」でテレビにも取り上げられた寺本氏に、町役場が飲食店を立ち上げた経緯と成功の秘密を伺った。(加藤 年紀:ホルグ代表取締役)

◎本稿は、地方自治体を応援するメディア「ホルグ(Heroes of Local Government)」に掲載された「【邑南町 寺本英仁 #1~#5】」を抜粋・再編集したものです。

東京で商品を売ることの難しさ

加藤寺本さんはこれまで邑南町で「AJIKURA」「耕すシェフ」「食の学校」、そして「農の学校」など数多くの取り組みをされてきました。まず、2011年に地産地消レストランの「AJIKURA」をオープンしました。「邑南町が『A級グルメ』の町として発信していく拠点の1つ」としてオープンしたとのことですが、「AJIKURA」が生まれるにあたって、どのような背景がありましたか。

レストラン「AJIKURA」の位置(Googleマップ)
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寺本氏町村合併をして人口が減っているのがご多分に漏れずありました。そんな中で「人口が減ったら町内の商品は売れないから東京に売りに行こうか」という話になったんです。当時、宮崎県の東国原知事がマンゴーとかキャビアを東京で売っていたじゃないですか。ああいう外貨獲得をしないと、今の人口減少の中では地域の循環経済はもたないだろうと。

加藤町のものを外で売ろうとしたわけですね。

寺本氏はい。それで、東京で売ろうとブルーベリーのジャムをデパートに持って行ったんだけど、最初に言われたのが「あんまりデザインが良くないね」と。生産者が自分でやっているわけだから、それはそうですよね。

 どうすれば良いか聞くと、「デザイン直したら置いてあげるよ」と。「どういうふうに直せばいいんですか」って聞くと、「うちにデザイナーがいるから、デザイナー紹介してあげるから」って言うからお願いしたら「30万円です」って。

加藤大金ですね。

寺本氏デザイン費が30万円もするなんて、僕にはちょっと見当もつかない額だったんですね。それまでは生産者や職員が自分でできることだと思っていたから、そんなことに30万円もかかるのかと。

 仕方ないのでお願いしてデザインを直したら置いてもらえることになったんですけど、今度は「2週間しか置けません」と。「なんで2週間しか置いてくれないんですか?」って聞いたら、「いやいや、寺本さんのような町の自治体って全国にあって、どこも順番待ちなんですよ。デパートとしても目新しい商品の方が売りやすいから、あまり代わり映えしないものは2週間が限度なんです」と。まあそれは自分もそうだよな、なんて思って。

加藤全国の自治体が東京のデパートで売りたがっているんですね。