オバマ米政権は発足3週間で金融安定化計画の公表に漕ぎ着けたものの、市場から「具体性に乏しい」と大顰蹙(ひんしゅく)を買った。計画発表を受け、2月10日のニューヨーク市場ダウ平均株価は2カ月半ぶりの急落となる382ドル安で引け、ガイトナー財務長官に激しいブーイングを浴びせた。

 だが、「中身なし」は早計だろう。この計画には不良債権処理の要諦がきっちり埋め込まれている。とりわけ、政府と金融当局が連携する資産査定と損失計上の徹底は、日本の大手銀行を震撼させた金融庁の特別検査を彷彿(ほうふつ)させる。

 次の局面は恐らく、更なる巨額損失の発生と公的資金の追加注入だろう。世論や議会の無用な反発を避けるため、財政出動拡大の可能性などおくびにも出さないが、少なくとも問題解決の方向性を示した点に、オバマ政権の冷静な判断がにじみ出ている。

事前報道で丸裸、市場に過大期待

米、新たな金融安定化策発表 官民共同で不良資産買い取りへ

金融安定化計画を発表したガイトナー米財務長官〔AFPBB News

 「新聞に書いてあるのと同じじゃないか」。2月10日の昼前、リポート用紙7枚にまとめられた金融安定化計画を見て、ウォール街の誰もがこう呟いたはずだ。「事前報道以上にどんな “隠し球” があるのか」という投資家の期待は、瞬く間に失望へ転じる。朝から軟調だったダウ平均株価は下げ足を速め、200ドル安になった。

 計画の骨格は、6部から構成されていた。最も注目を集めたのは、金融機関から不良資産を買い取る「バッドバンク」構想。だがそれに関しては、官民共同出資で創設されるファンドの資金規模が当初5000億ドル(約45兆円)だが、1兆ドル(約90兆円)に増やす可能性もあるという素っ気ない文章しか見当たらない。

 不良資産をいつから、いくらで買うのか、どの民間金融機関が出資するのか・・・。マーケットが知りたい答えは何も用意されていない。それどころか、記者会見に臨んだガイトナー長官は声明を読み上げるや否や、質問を受け付けずに退場。市場は苛立ちを「ダウ300ドル安」でお返しした。

 その後、ガイトナー長官とバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が分担して議会公聴会に出席したが、計画の具体的内容への言及はなし。ついに市場は悟った。旧知の証券ディーラーが「難局を一気に打開するウルトラCはないということか」と吐き捨てると、引け直前にダウの下げ幅は一時400ドルを超えた。

NY株ほぼ3か月ぶりの安値、金融機関安定化策に失望

NY市場、失望売り一色に〔AFPBB News

 そもそも、金融安定化計画をじっくり吟味する時間を、オバマ政権は与えられなかった。大統領が腐心したのは総額8000億ドル(約72兆円)を超える景気対策法案の議会対策。「2月中旬には成立させる」と大見得を切った手前、それが最大の重圧になった。

 このため、金融安定化計画の優先順位が下がってしまった。政権内で突っ込んだ議論を行う時間を稼ぐため、計画発表は土壇場で1日延期。さらに白熱する報道競争で計画概要が事前に丸裸となり、市場は「公表の際にはさらに詳細が明らかになる」との期待を勝手に膨らませていた。

 ほぼ事前報道通りの内容が伝わると、ウォール街の失望はひときわ強まり、「ひどい見切り発車。早く発表しないと市場が混乱するから出しただけ」(中堅証券)と酷評される結果となった。