ビジネス・クリエイティブ・ICTの3分野を融合させた学びを提供するデジタルハリウッド大学大学院(通称「デジハリ」)。日本で唯一「デジタルコンテンツマネジメント修士」という学位を用意する。

デジハリのねらいは、「ICT技術の上に個人にも社会にも役立つ新しい研究領域を作る」こと。政治、医療、IoTといった諸領域ですでに先端を行く学生がデジハリに入り、デジタルテクノロジーと融合させた学びを経験して新しい研究領域を切り開いていく。最近は医療とテクノロジーを掛け合わせた新しい取り組みも続々と生まれている。
 

選挙の世界からデジハリへ

仁木 崇嗣
北海道から九州まで各地の20代当選議員を中心としたネットワークづくりと青年首長のエンハンスメントに加え、市民同士の学びの場づくりを通じて、デジタル社会を前提とした未来世代のための政治の実現を目指し活動している。2015年3月デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科を修了。同7月にユースデモクラシー推進機構を設立し、代表に就任。デジタルハリウッド大学メディアサイエンス研究所では研究員として、早稲田大学公共政策研究所では招聘研究員として「eデモクラシー」をテーマに民主主義の未来を探求中。
http://youth-democracy.org/

 

 「一般社団法人ユースデモクラシー推進機構」の代表をつとめる仁木崇嗣さんもデジハリの修了生。全国の若手議員を中心としたネットワークづくりや、自治体の首長のバックアップ、憲法や政策を学ぶ場づくりを通じて、「デジタル社会の民主主義」の発展を目指す。

仁木さんの経歴は自衛隊から始まる。自衛隊退職後は、ベンチャー企業を経て起業し、主に選挙活動の支援を行っていた。
「選挙のロジから情勢調査、政策・戦略を考えるお手伝いまで、選挙に必要なものをワンストップで提供する会社を立ちあげた。国政・地方・首長選と、選挙支援に4年間で100件くらい関わりました」

そのときに抱いた問題意識が、「選挙って規制もわかりづらく、制作物も多いし、すごくアナログだなということ」、そして「選挙で試される能力と政治家として必要な能力のあいだにギャップがあるということ」。「これはいつか変えないといけないなと思った」という。
そのころちょうどキャリアアップの必要を感じていた仁木さんは「伝統的な学校では得られない新しい分野を学ぼう」とデジハリへの入学を決めた。
 

学びの日々

 デジハリでの日々は「知らなかったことをシャワーのように浴びる日々だった」という仁木さん。
今でも覚えているのは『デジタルコミュニケーション原論』で聞いた杉山知之学長の「これからの時代は、若い人たちが作っていかなくてはいけない」という言葉。

「杉山先生は授業の中で、デジタルテクノロジーの進歩の歴史を語りながら、世界の人口構成比のグラフを示して、若者の数が多くデジタルネイティブが増えていくことに気づかせてくれた。そのときに、『世界ではデジタルネイティブが多数派になるのに、日本はずっと内向きでアナログ世代中心の社会でいいのだろうか』と思った」という。

仁木さんが修了課題のテーマに選んだのは「選挙×デジタル」。「今まで自分がやってきたことにデジタルテクノロジーを掛け合わせよう」と考えた。
「『事前に録音音声で接触することで、人に会いやすくなるか』という研究をしました。選挙は、人と会って自分を知ってもらうことが基本。でも今はなかなか話を聞いてもらえない時代。どうしたら効率的に人に会えるかを考えました」

「電話帳からオートコール(自動音声電話)をする。それで反応が良かったところを地図上にマッピングし、タブレットに表示させるというサービスを作り、どれだけ効率的かということを研究しました」
当時、デジタルツールを使いこなせる政治家はごく少数。その中で、このサービスを使って実際に候補者を当選させ、結果も含めて修了課題として提出したという仁木さん。

「すでに問題意識のあるところにデジタルテクノロジーを掛け合わせたら、新しいものができた」と振り返る。
 

デジハリで学んだ分野を古巣に持ち帰って起こった
化学反応

 「デジハリで、デジタル分野をはじめとする様々な領域を学ぶ。それを自分がもといた分野に持ち帰ると、みんなが知らないことを知っている人になる。新しい分野を作るきっかけになる」

仁木さんが修了した2015年4月に、ちょうど統一地方選挙があった。
「私はそのとき28歳でした。選挙とデジタル、若者を掛け合わせた活動の中に、さらに『地方』というフィルターを感じた。地方だと情報のギャップがさらに大きいんです」

「自分に何ができるかを考えて、デジタルネイティブ世代の地方議員と会ってみようと思った」仁木さんは、このときの選挙で誕生した20代当選議員のうち53名に会いに行った。

「デジタルネイティブ世代から政治を変えられることを確信した。東京で集めてキックオフイベントを行いました」
こうして始まったのが「一般社団法人ユースデモクラシー推進機構」の活動だった。

「最初はオンラインでのナレッジ共有や、議員同士のコミュニケーションを深めていくことから始めた。その後、もっと議員以外の仲間を増やす必要があると考えて、デジタル時代の憲法をテーマに議論する『デジ憲』を開催したり、政策案のアイデアソンなどを通じて首長視点で地域に向き合える人を育てたり、行政が行う事務事業の評価を検証するワークショップをしたり、行政・地方自治体を変えていく人をつくる様々な取り組みを始めました」

デジハリというプラットフォーム

 修了から4年、今も仁木さんのデジハリとのかかわりは濃厚だ。デジタルハリウッド大学でメディアサイエンス研究所研究員をつとめる仁木さんは、デジハリ在学生の現職国会議員とともに電子国家として先進的なエストニアの視察に参加した。大学院の新入生向け合宿にも毎年ファシリテーターとして関わっている。

「すでに特定分野の専門家であるデジハリの社会人学生や修了生と関わっていると、社会の中で自分のやるべきことが見えてくる」という仁木さん。

「たとえば私はVRに興味がありましたが、VR単体ではその分野のスペシャリストにはかなわない。私の役割は、VRのような先端テクノロジーをどう社会実装していくか政治的環境を変えていくことだと思った」

「ここに来る人たちは、世の中を変える人たち。どうすれば、その人たちと連携して世の中を変えるスピードを加速できるのか、毎年気づかせてもらっています」
 

これからの『eデモクラシー』

 政治とデジタルを掛け合わせて、未来の民主主義のあるべき姿を考える仁木さんは、「今こそ、『eデモクラシー』を推進するとき」と話す。
「今の社会はインターネットが前提としてあり、そこに人が存在する。デジタル社会で多くの時間を使い、情報を摂取し、物事を体験し、意見を形づくるようになった。その中で、民主主義のあり方は昔のままでいいのでしょうか」

「行政手続や行政機関を電子化する『eガバメント』は政府主導で進んでいくでしょう。でも、『eデモクラシー』は、私たちがどういう風に政治に参加していくかという問題。私たち一般市民が主導しなくてはいけない。政治とのインターフェースが日常の中でどういうものとしてあるべきか、人々が満足できる政治参加の仕組みとは何かという話。ただパブコメや陳情を電子化すればいいだけの話じゃない。意識高い人だけの参加でもダメで、一部の人にとってだけ重要な個別的な課題を対象にするものでもなく、主権者の意識の変容とともに、正しい判断をするためのあらゆる情報の真正性の担保や可視化をする必要があります。併せて、自分自身の情報を他に委ねない自己主権型のデータ管理の仕組みも必要になるでしょう」

「今は過渡期。どこにも正解がない。その中で、未来志向で、あるべき姿を模索していきたい」
仁木さんは締めくくる。
 

<取材後記>

「これからは、デジタルの権威主義に人々がどう向き合うかも問題になってくる」と仁木さんは言う。「官僚機構はAIのプロトタイプみたいなもの。きっと最適解を出してくれて、間違いがないと思わせてくれる。日本人は、文句は言うけど結局は信用して任せている。これを突き詰めると、AIに任せたら大丈夫という発想になってしまう。AIが血の通った人間を数値化し管理できると信じたとき、AIに全てを委ねて自分の頭で考えない方が幸せだと思うかもしれない」

これは未来の遠い話ではない。「考えないことがハッピー」ではなく、私たちが個人の問題としてデジタル社会の政治参加や人間としての生き方について考えなければならないときはもうすでに来ているのだろう。
 

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