神成 大樹
株式会社BRAIN MAGIC CEO
株式会社B.C.Members 取締役
デジタルハリウッド大学院修了、デジタルコンテンツマネジメント修士。学生時代よりイラストレーター、デザイナーとしての活動を開始。2012年ソーシャルゲームのイラスト、UI等周辺デザインを主な事業内容とする株式会社B.C.Membersの創業に参加。取締役に就任。その後、職務に従事する傍ら、デジタルハリウッド大学院に通い始めたことをきっかけに、予てより構想のみ存在したクリエイター特化型の入力機器の研究開発をスタート、2016年に同研究とビジネスモデルを持って株式会社BRAIN MAGICを創設。現在同製品を中心に様々なクリエイター向けソリューションを構想中。

 今年の3月、キーボードを使わずに描画のための操作ができるクリエイター向けの入力デバイスが一般発売され、「コンピューター上の絵の描き方が大きく変わった」と国内外のクリエイターたちに話題を呼んでいる。

「クリエイターの仕事革命」を起こしたこのデバイスOrbital2(オービタルツー、通称O2)を開発した神成大樹さん(株式会社BRAIN MAGIC)は、もともと電子工作もプログラミングも素人だったイラストレーター。「デジタルハリウッド大学大学院の授業がきっかけでデバイスを開発した」という。

「私がイラストレーターとしてこれからも絵を描き続けるために必要なデバイスを、一つだけ作りたいという気持ちで着想した。製品を作るつもりもなかった。デジハリに行かなかったらO2はできなかったでしょう」
大学院在学中の3年間で、神成さんに何が起こったのか。
 

通称「デジハリ」で学ぶ学生

 超高度情報社会が訪れたといわれて久しい。進化するデジタル技術を実生活に役立たせる力を持った人材はますます不可欠になっている。
デジタルハリウッド大学大学院(通称「デジハリ」)は、ビジネス・クリエイティブ・ICTの3分野を融合させた学びを提供し、日本で唯一「デジタルコンテンツマネジメント修士」という学位を用意する大学院だ。ここで学ぶ学生は、「デジタルコミュニケーション」に携わる人材として、時代に変革を起こす新しい産業・文化を創ることを期待される。

大学を卒業後、ソーシャルゲームのイラスト・周辺デザインを作る会社を立ち上げ、イラストレーターのキャリアを歩んでいた神成さんも、「クリエイティブ業界に関するビジネスの知識を身につけたい」との思いで2013年にデジハリに入学した。

「初年度はビジネスを学んでいた。組織開発や著作権を学びながら、ソーシャルゲーム業界に向けた情報商材や記事を作っていました」という。

その方向性が変わったのが、2年次に香田夏雄教授の『プロダクト・プロトタイピング演習』という授業に参加したときだった。

「素人でも簡単な開発ツールを使って電子工作ができるようにするという授業。そこで『ああ、これで、今まで私が課題に感じていたイラストレーターの健康問題を解決できるかもしれない』と思ったんです」
 

イラストレーターの仕事

 イラストレーターは両手を酷使する仕事だ。パソコン上で細かく色を塗り、イラストのディテールを作りこむために1時間に1000回以上ショートカットキー操作を行うこともある。神成さん自身もひどい腱鞘炎になったことがあった。
「ずっと憧れの職業だったイラストレーターにいざなってみると、考えるのは健康のことばかり」

「私は絵を描くのが好きで、ひたすら絵だけ描いていられればいいという人間なのですが、このまま続けたら描き続けられなくなるという危機感があった。でも、香田先生の授業を受けたときに、手に負担のかからないツールを作ればいいと思いついた」という神成さん。

「今あるお金を全部使い切ってもいいから、自分が10年後も20年後も絵を描き続けるために最高のデバイスをひとつだけ、作ろうと思ったんです」
香田教授のアドバイスを受けながら、神成さんの試行錯誤の日々が始まった。
 

デジハリでの試行錯誤の日々

 「デジハリのリソースを使って、いろいろなアプローチを試しました」と神成さん。
「ソフトウェアのアーキテクチャを教える三淵啓自先生にプログラミングのアプローチを相談したり、『ゲームラボ』の新清士先生にVRのアプローチを相談したり」

手を使わずに描画の入力作業ができる、視点計測や脳波を測るツールや、ボタンごとに機能を付けたスイッチ。10本しかない手の指を使った入力作業には簡略化が必要だった。神成さんは試行錯誤の中で、「卓上のコショウ入れ」にヒントを得て、「デバイスに『倒す』プラス『回す』の動作を取り入れよう」とひらめく。
 

デジハリと二人三脚で製品化へ

 神成さんはO2の制作をデジハリ卒業のための「修了課題」とすることを決め、2015年10月には試作品で中間発表をした。デジハリでは、アイデアをサービスやプロダクトに昇華させる「プロトタイプ」制作が卒業の単位として認められるのが特徴だ。

中間発表を受けてデジハリはO2を『アクセラレーション・プログラム』に採択し、『アイデアの実装』のための資金援助を決める。

「ちょうど私の自己資金が尽きかけていたころでした。デジハリの支援でプラスチックを削り出す切削加工機を買ったのですが、これがなかったら製品化はできなかった」と神成さんは振り返る。

制作中にデジハリを修了した神成さんは、その後もデジハリと二人三脚でO2を作り続けた。
クラウドファンディングから製品化。その間、米ラスベガスでのテック系イベント「CES」にも出展。言語を必要としないツールの強みを生かして、世界中のクリエイターから称賛を受ける。

キーボードを使わずに描画のための操作ができる
クリエーター向け入力デバイス Orbital2(通称「O2」)

「ようやくここまで来たなという感じです」と神成さん。着想から5年。当時「自分がずっとイラストを描いていられるための、一つだけの最高のデバイス」を目指していたものは、今、「すべてのクリエイターが長くイラストを描き続けるための製品」になった。
 

O2の先に

 「今はO2の開発者としてこうして人前で話したりしていますが、自分が何者かは変わらないんです」と神成さんは言う。「私はイラストレーター。私の根底にあるのは、ひたすら絵を描き続けるのが幸せという気持ち。それは変わらない」

今、神成さんたちは、人工知能を活用しながら、『クリエイターがものを作るときの作業プロセスを新しい価値に変えるためのツール』を開発している。
「世界は変わり続けている。これから人工知能も発達していく。私は、人間と人工知能のかかわりはいろいろなものがあっていいと思う。ただ、20年後も、100年後も、人間がものを作っている未来であってほしいと思うんです」
「でもそれって簡単なことじゃない」


『速く行きたいなら一人で、
遠くへ行きたいならみんなで行け』

 「これはデジハリ入学後に、新入生向けのエクスカーション『Future Gate Camp』でエフェクティブ・ラーニング・ラボの佐藤昌宏先生が教えてくれた言葉」と神成さん。『遠くへ行く』ことの意味を問うと、複雑で難しい未来に取り組むことだと答えてくれた。

「私は、ずっと一人で来た人間だった。でも、私が今取り組もうとしていることは、すごく難しい取り組み。一人ではできない。遠くへ行くのは難しい。一緒に遠くに行ける仲間を見つけるのも難しい」

「同時に、デジハリに来て、できることが広がったのを感じています。『遠くへ行く』ための仲間を見つけることがすごく容易になったんです」と神成さんは話す。
「デジハリは、私にとって、遠くへ行く仲間を見つけた場所です」
 

<取材後記>

 インタビューの間、クリエイターのプロセスを研究するツールは、ライターが文章を書くことにも応用できないだろうか、頭の中で描いているものが立ち上がっていくみたいなものができないかな、と思いながら聞いていた。そんな途方もないことを、ハードウェアとソフトウェアの合わせ技で実現する未来。テクノロジーで遠くに行く可能性はさまざまな分野にあるのだなと思わされた時間だった。
 

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