超高度情報社会が訪れようとしている。生活のデジタル化が進んだ現代、コンピューターやインターネットの技術に支えられたデジタルコミュニケーションの利用はますます加速していくだろう。

Olga(オルガ)
3Dモデリングから洋服をデザインするという異色のファッションデザイナー。アパレルブランド“エトヴァス・ボネゲ”を立ち上げ、デジタルツールを駆使した新しい服づくりへの挑戦と、ファッションの新たな視点を提案している。2017年3月デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科を修了。同4月より、同助教に就任。2018年4月より、ファッションテックラボを主宰。 「未来を、世界を、かっこよくしたい。」という理念のもと、活動中。
http://www.etw-vngt.com 参照

デジタルハリウッド大学大学院は、ビジネス・クリエイティブ・ICTの3分野を融合させた学びを提供して、時代に変革を起こす新しい産業・文化を創造する人材の育成を目指す。修了生が取得するのは、デジタルコンテンツマネジメント修士という学位だ。

同大学院を修了し、現在は同大学院の助教もつとめるファッションテックデザイナーのOlga(オルガ)さんは、そんな大学院の価値観を体現する人材でもある。自らのファッションブランドEtw.Vonneguet (エトヴァス・ボネゲ)を通じて衣服やウェアラブルデバイスをデザインし制作する傍ら、「ファッション・テック」をテーマにした大学院でのラボ(研究実践科目)を受け持つオルガさんに話を聞いた。
 

「ファッション・テック」?

「ファッション・テック」という聞き慣れない言葉に、オルガさんは「たとえば、エレクトロニクス系とファッションをからめた作品の制作や、CGを使ったファッションショー。ファッションとテクノロジーを融合させる分野です」と説明を始める。

オルガさんが大学院修了時に作ったのは、アイロンで接着できる電子回路を用いた「ヒーターパーカー」。
「電気を通す接着剤を用いて作られた回路に、パーカーなどの衣服のうえに電子回路を接着する。ヒーターの回路部分に電気を通して、衣服をあたたかくするのです」

「ほかにも、電気を通す素材を使って、3Dプリンターで接触点を作り、人が触れると光る服(「ACT」)を作ったり」
こうしたエレクトロニクスやデジタルのツールを使って新しい服づくりへ挑戦し、ファッションに新たな視点を提案するのが目的だという。

「もともとファッション業界にいて、ロンドンに留学したのち、ファッションブランドを立ち上げた。そのときから衣服の制作にデジタルの視点を取り込もうとしていた」というオルガさん。友人に杉山知之学長の研究室への見学に誘われ、ファッション業界で出会えないテクノロジーの専門家に出会えることに魅力を感じて入学を決めた。

「ファッション・テックを社会の中で実現していく手段として、ビジネスを学びたかったのもある」
 

新しいアイデアと実社会をつなぐ

その言葉通り、オルガさんの大学院での2年間は、ファッションとテクノロジーを軸としたアイデアを社会で実現するために駆け抜けた2年間だった。
入学直後に行われた「Future Gate Camp」という新入生合宿のワークショップが、その後の2年間の原型となったとオルガさんは語る。

「衝撃的だった。迷っている場合じゃない、とそのとき思った」

ファッションを軸にしてイノベーションを起こしたいという思いを、このときの着想から具現化させていったオルガさん。ファッションを通じて何をしたいか、自分の描いている像をどう社会に応用したいか、徹底的に考える始まりの時間だった。

それを2年間で具体化したコンテンツのひとつが、前述の「ヒーターパーカー」。修了課題として発表したのがヒーターパーカーのデモコンテンツだった。
防災用に使ってほしいと考えて作り始めたヒーターパーカーだったが、実際に世の中にどのように使ってほしいか、どこにどのくらいの規模で浸透してほしいか、そういった調査を進める中で、「社会に対するインパクトを考え続けた」という。

たとえば調査当時、仙台市のカイロの備蓄は600個だった。そこにヒーターパーカーを持っていくとどういう効果があるか。ただものを作るだけでなく、これが社会の中で何になるのだろうかという、社会との接続点を常に考えていたという。

今、オルガさんは、こうしたウェアラブルデバイスを日常の暮らしの中でより身近にするためのデザインに関する研究を深めているところだ。また、電気を通す繊維の使い方を教える講習会を行うなど、一般にはなじみの薄いファッション・テックの認知を広げる活動も行っている。

「デザインを発展させる技術を確立したい。ファッション・テックといっても、デザインを先に考えるべきなのか、ユーザーテストをして使いやすさを見るのが先か、マーケティングから考えるのか。どのステップが一番いい成果を出せるのかを模索している」
 

「時代のせいにはできない」

「入学前、トラディショナルなファッション業界にいるときは、デジタルツールを取り入れようとしている自分は異質の存在で、なかなか受け入れてもらえなかった。でも大学院に入って、ファッションとテクノロジーという異なる領域を融合させる試みを、面白いと評価してもらえた」とオルガさん。

「それが、自分のキャリアはこの道で合っているという自信につながった」

キャリアの中で大学院という選択肢を考え始める20代後半から30代前半は、多くのビジネスパーソンにとって、人生の転換期と重なる。特に女性にとってみると、仕事と家庭と学びの場所、3つを両立させる覚悟が必要になることもある。
「その中で、自分のやりたいことに踏み出すかを迷うこともある」と、オルガさん。

「でも、昔を振り返るともっと厳しかった時代もあった。男女の差がもっと大きかった時代もあった。でもそのときにどうにかしてよと思っている人たちがいて、その人たちがちょっとずつ変えてくれた」
「だから、踏み出すかどうかを時代のせいにはできない。今は個人が生きる時代。私たちが、リアルなビジネスパーソン像やリアルな女性像を体現して、ロールモデルになっていかないといけない」

新しい分野の産業を生み出すことを目指すデジタルハリウッド大学大学院。新しい産業とともに新しいリアルな女性像を体現するオルガさんは、「これからです」と締めくくった。
 

<取材後記>

大学院を経て何が一番変わったかと問うと、「パートナーが増えました」と答えるオルガさん。ファッション・テックという新たな分野を作ったことで、ファッション、テクノロジーの各領域でかかわった人や企業との間で共通言語ができ、「彼らにもっと声をかけやすくなったし、もっと深く遊ぶようになった」と笑う。

彼女のブランド名「エトヴァス・ボネゲ」は、アウフヘーベンをもとにした造語だという。二つの領域を単に足し合わせるのではなく、掛け合わせることで、多くの人を巻き込む。これからの時代は、掛け合わせの時代なのかもしれない。

 

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