ほとんど倒産寸前だった神戸製鋼所の関連会社シンフォニアテクノロジー(旧社名:神鋼電機)は、自分限りで天下り社長をやめると言い切った佐伯弘文社長(当時、現相談役)の下で経営の舵を大きく切る。

 前回は総務・人事部門から始めたコスト削減大作戦と、賞金稼ぎとの批判を受けながらも断行した社員からの改善提案大募集作戦についてお伝えした。今回は生産現場の革新と社員間のコミュニケーションの活性化が、いかに大切な役割を果たしたかをお送りする。

まずは生産現場を働きやすく変える

 ムダ撲滅運動と同時に進められたのが、工場革新運動だ。ムダ撲滅運動が問題点をその都度処置していく対症療法型活動とすれば、工場革新運動は仕事のやり方や流れそのものを改善していく根治型治療と言えよう。

 メーカーとしての生命線である生産現場を改善するということから、トヨタ系外部コンサルタントの力を用いて開始したのだった。

 まず、協力してもらうにあたって工場診断をお願いしたのだが、この時はさすがの佐伯氏も愕然としたほどの言葉が、コンサルタントから告げられた。そのときの様子を佐伯氏は次のように語る。

 「診断結果は、レベル1~レベル5の5段階評価で0.1。事前に、1は幼稚園、2は小学校、3は中学校、4は高校、5は大学レベルと聞いていたのだが、『ここは幼稚園にも行けない1未満のレベル』と言われて正直驚いた」

 「改革運動を開始してから2カ月経って、『この会社はヌカクギで、改善できるかどうか約束できる状態ではありません。コンサルタントとして自社の信用と名誉に関わるため、今回のお手伝いはご遠慮したい』と言ってきた」

 「そんなこと言わずに続けてほしいと引き止めたほどひどい状況だった」

 コンサルタントが敬遠するほどの状況だからこそ、本気で取り組まなければならない。そう意を決した佐伯氏は、「これは会社のためでも誰のためでもない。みなさん自身のためなんだ」と何度も檄を飛ばし、具体的な施策を順次展開していくこととなる。

 まずスタートさせたのが、この運動の推進を担う「工場改革マイスター」を各部門に配置し、部門単位で活動を進めることだった。そして、「工場革新推進室」が事務局となって各部門ごとの進捗度を測り、ワーストテンの部長名が毎月社報で公表された。