長野県・御代田町(みよたまち)は、国内屈指のリゾート地である軽井沢と、島崎藤村の『千曲川旅情の歌』にも歌われた小諸市との間に挟まれた、人口1万5000人の町。両隣とは違って全国にはあまり名前も知られていない。誤解を恐れずに言えば、とても地味な存在である。
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とはいえ、知る人ぞ知る風光明媚の地。同じ浅間山の麓でありながら、軽井沢よりは標高が低く、平均気温は2度高くてしかも軽井沢特有の湿気も少ない。さらに商業施設を擁した佐久市も至近だ。そんな環境の良さから近年は軽井沢から御代田に別荘を移す人は少なくない。古くは世界的に知られる作曲家の武満徹さんもこの地に山荘を構えて創作活動に勤しんだ。
この御代田町に、2月の選挙で異色の町長が誕生した。41歳。長野県の市町村長の中では最年少。しかも当地の出身ではない。
市区町村長といえば、地元出身で役場に長く勤め、事務方のトップにのぼりつめた人が前職からほぼ禅譲の形でその職を譲り受ける、そんなものだと筆者も思っていた。それが常識になっている自治体も少なくないだろう。
しかし新町長の小園拓志(こぞの・ひろし)さんは北海道に生まれ育ち、中高は兵庫県、大学は東京大学法学部に学んだ。卒業後は北海道に戻って新聞記者を務め、当地へは昨年(2018年)9月に移り住んだばかり。それからわずか5カ月後のこの2月、3期12年務めた前職を大差で破って町長に当選した。
隣接する軽井沢や小諸とは違ってその名を広く知られることもないこの静かな町。しかしこの地が地方自治体のあり方を根本的に変える地殻変動の震源地になる可能性を秘めている。御代田町を訪れ、新進気鋭の小園町長に取材した。
「子どもの未来を応援する住民運動」に共鳴
「よそ者」と言っては気の毒だが、実際、小園さんは半年前にこの地に移住したばかりで、押しも押されもせぬよそ者である。
しかし御代田町との縁は思いのほか古い。小園さんが最初にこの地を訪れたのは小学校5年生の頃のこと。町の中心部にある父親の知人宅に遊びに訪れたのが馴れ初めだった。それから何度もこの地を訪ねたが、その頃の写真が知人宅に今も残っているという。