大手紙の中で、最もデジタル化に成功したといわれているのが日本経済新聞だ。有料購読者数が60万、無料購読者数も含めると400万に上る「日経電子版」は、なぜ業界のトップを走り続けるのか。前回に引き続き、「日経電子版の読みかた」の著者でもあるフジテレビ解説委員の鈴木款氏が、日経の常務取締役でデジタル事業を担当する渡辺洋之氏にその秘密を直撃した。(構成:阿部 崇、人物撮影:NOJYO<高木俊幸写真事務所>)
前編(『「失敗する」と冷笑された日経電子版が成功した理由』)はこちら
広告単価のイニシアティブを握るのはヤフーとグーグル
鈴木款氏(以下、鈴木) 渡辺さんは以前「日経のライバルはプラットフォーム企業だ」とおっしゃられていて、その発言は『日経電子版の読みかた』の中でも引用しました。日経電子版にとって、現在そして将来的なライバル企業はどこになりますか?
渡辺洋之氏(以下、渡辺) 常にライバルは新しいITベンチャーやプラットフォーマーですね。
もともと紙の時代は新聞社同士で戦ってきて、発行部数の大きさで序列があったりしましたが、デジタルになった瞬間にライバルはヤフーとグーグルです。
電子版の前は日経ネットがあって、これは新聞社のサイトでは最大級でしたが、当時広告単価のイニシアチブを持っていたのは新聞社ではなく国内ではヤフーとグーグルでした。彼らが単価を下げたら我々も下げないといけないという循環に入っていました。
結局ネット上では新聞社同士で戦っても意味がないんです。ヤフーとグーグルに負けたら主導権がなくなるわけですよ、常に。それを最初から意識して、私は事業をやってきました。
鈴木 さらにキュレーションサイトの存在もありますね。
渡辺 グーグルやヤフーだけでも大変なのに、スマホの時代になったらニューズピックスを含めたキュレーションメディアなるものがどんどんニュース市場に加わってきました。自分たちで客を集めるのか、集まっているところにニュースを出すのかで、ビジネスのコンセプトが変わるので、新聞社同士の競争とは全く無関係ですよね。
だから我々は読者とは言わなくて、顧客と呼んでいます。なぜなら「読者サービス」というと常に「おまけ」をどう付けるかという発想になってしまいますが、「顧客サービス」といえば「満足度を上げるためにどんどん改善していいものを提供しましょう」ということですから。それが新聞のサービス化です。
そういう意味ではプラットフォームの変化、それを使うお客さんの変化に対して常に意識を置いている感じですね。