今回、ロシアのビジネスあるいは研究に携わる有志で、経済を中心とするロシアの現状を週次でリポートすることになった。執筆者の専門分野は多岐にわたるが、この連載の目的は読者に対してロシアがどこに向かおうとしているのか、そして日本にとってビジネスパートナーとなり得るのか、新しい視座を提供することにある。

 筆者は2002年に1990年代のロシア、いわゆる体制移行期のロシア経済を回顧した『ロシア経済10年の軌跡』と題する本を共著で出版した。その副題は「市場経済化は成功したか」であった。

 我々は90年代末期から21世紀の初頭をモスクワで過ごした経験を踏まえて、執筆時点では「成功した」と言える確信はあったのだが、ロシアのその後の発展は我々の想像をはるかに超えるものであった。

 足元のロシア経済は再び困難に直面している。1998年金融危機の後、多くの日本企業が「やっぱりロシアはダメだ」、と判断してマーケットから撤退した。 それが2000年以降のロシアブームの中で、日本がロシアで儲け損なった遠因の1つでもある。

 今回も同じことが繰り返されるのだろうか?

 連載初回の冒頭で結論を申し上げるつもりはないが、今後、我々執筆陣は読者の皆さんにこの問題を考えるきっかけ、ヒントを提供したいと考えている。 これが新しいロシアへの新たなアプローチにつながれば幸いである。

モスクワ2009年1月

モスクワ市内アルバート通り。マイナス20度近い中、ウインドーショッピングを楽しむモスクワの人たち

 初回から堅い話も気乗りしないので、今回は現在のモスクワの町の様子をお伝えしたいと思う。
モスクワはこの週末はマローズ、すなわち寒波の週末であった。日中の気温はマイナス17度、地元民ならともかく、暖冬の東京から来た出張者には厳しいものがある。

 これだけ聞くと読者は毛皮のコートと帽子に身を固めた人々が吹雪の中をうつむきがちに歩く姿を想像されると思うが、はずれである。 モスクワでは晴れた日のほうが寒い。

 日本では見られない光景だが、マイナス17度でもアスファルトは乾燥している。 モスクワの年間降水量は500ミリ、東京のおよそ3分の1なので、雪も北海道や日本海側のようには降らない。ロシアに対する固定観念の端的な例と言えよう。

 さて、筆者の生業はロシアのベンチャー企業へ投資するベンチャーキャピタリストである。したがって、好む好まざるにかかわらず、ロシアには毎月のように足を運ばざるを得ない。