本流トヨタ方式の土台にある哲学について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 今回からは「(その4)現地現物」について説明していきます。

大人になると「分かったつもり」になってしまう

 現場で働く者にとって「現地現物」は最も基礎的な部分であり、トヨタ自動車では入社して数年の間、徹底的に教え込まれます。

 同時に「なぜ、ナゼ、何故・・」と自問自答することを教えられます。これは、そのものの本質を理解していけということなのです。 

 乳児は、何か新しい物を見ると、見るだけでなく手に取ってみようとします。手に取ったら口に入れ、おしゃぶりをします。おそらく、食べられるかどうかの判断をしているのでしょう。

 このように、1個の物体を見て外観を捉え、手に取って触感と重さを測り、なめてみてその温度と味覚を知るのです。この体験があるからこそ、飴を一目見ただけで、それがキャラメルだと分かり、味を思い出すようになるのです。

 ところが、大人になると、新しい飴を見た時に「これは何ですか」と問い、「カルメ焼きです」という答えを聞いて分かったつもりになり、それ以上を確かめようとはしません。

 「本流トヨタ方式」では、大人になってからも乳児と同じことを求めます。「カルメ焼き」という名前を知っただけで満足してはいけない、手に取ってその軽さを知り、なめてみて、砂糖を焦がした物であることを感じろ、そして、なぜ軽石のように気泡をたくさん含んでいるのかを考えてみよ、と命じているのです。

 さらには、その作り方を聞いて、自分で実際にやって確かめてみることまでを期待しているのです。

 つまり、すべての知識は、自分の五感を通して得たものでなければならない、という意味があるのです。これがトヨタにおける「現地現物」の基本的な考え方です。

油だまりの中に手を突っ込んだ豊田喜一郎氏

 筆者は1967年にトヨタに入社しました。その年の大卒新入社員教育では、「現地現物」の教育として、創業者の豊田喜一郎氏(1894~1952年)の2つのエピソードを聞かされました。そのエピソードから現地現物とは何かを悟れ、というものであったと記憶しています。