日ロ関係は今、友好と対立が入り乱れる「小さな混乱」状態に陥っている。

 1月24日、ロシアのメドベージェフ大統領は麻生太郎首相に電話をかけ、15分程度の話をした。その時にメドベージェフ大統領は、サハリン2(サハリン州沖の石油・ガス開発プロジェクト)の天然ガス輸出開始を祝う記念式典に麻生首相を招待した。ロシアのマスコミによれば、記念式典の開催は、両国の関係を前向きに議論するきっかけにしようという意図もあるらしい。

 橋本・エリツィンの「ネクタイなし」の会談を除けば、今までには例のないロシアからの働きかけである。実現できれば、日韓と日中の首脳レベルの対話の枠組みになる可能性もある。

 また、1月30日と31日には、モスクワで日ロ原子力協定締結交渉が行われた。原子力の平和的利用を共同で進める協定の締結に向けて、内容を討議する会談である。 2007年2月にスタートして、今回は8回目。協定に至るのは決して簡単なことではないが、お互いの関心が高いので着実に前進していると言える。

 さらにほとんど同じ時期、東京では1月28日と29日に「水産物の密漁・密輸出対策に関する第3回日露関係省庁会議」が行われた。日本の外務省、財務省、経産省、水産庁、海上保安庁、そしてロシアの連邦漁業庁、連邦保安庁、外務省、税関などの関係者が参加していた。

 1回目は2007年9月に東京で、2回目は昨年6月にモスクワで開催された。水産物の密漁・密輸出対策を検討する会議だ。ロシアの関係筋によれば、両国の暴力団絡みの闇漁業による水揚げは金額にして20億ドルにも達するという。

支援物資を積んだ船が足止め

 こうした交流によって日ロ関係が良好な方向に向かっている最中に、その流れを食い止めるような出来事が起きた。

 1月27日、北方領土に人道支援物資を届けようとした船が国後島に到着した。乗っていたのは日本の民間団体メンバーと外務省関係者だ。しかし、到着したところ、ロシア当局から出入国カードの記入を求められた。日本側は記入を拒否し、結局、荷物を降ろさずに29日の朝早く、国後島沖から根室に引き返した。

 これに対して日本政府は「理解できない」と反発。「ロシアの対応は今までの両国の合意に反し、筋が通らない」とロシアの姿勢を強く追及している。

 日本外務省によれば、日ロ双方の立場を損なわないように、身分証明書および挿入紙(訪問する団員の情報を記載したもの)があれば4島に入れるという口上書が、1998年に交わされている。ロシアの要求はその文書を反故にするものだというのが日本側の主張である。

 ロシア外務省は素早く反応して、28日に談話を発表した。それは次のようなものだ。

 出入国カードの記入を要求したことに政治的な背景は一切ない。ロシア全土で外国人登録するごくささやかな必要性に起因するものであり、たとえカードに記入したとしても、日本の方針・立場が変化したものとは受け止めない。人道支援はありがたく受け止めているが、その支援を政治問題化すべきではない、という。