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あえて機械をむき出しにすることで、外見によらない「生命性」を探っているという

(文:フォーサイト編集部)

 何やら誇らし気なこのアンドロイド、実は大舞台を終えたばかりなのだ。リズムを取りながら体を上下に動かしたり、口をパクパク動かしたり――。

 7月22日、「日本科学未来館」で開催されたのは、アンドロイドが「指揮者」兼「歌手」を務めるオペラ公演。音楽家の渋谷慶一郎氏がロボット学者の石黒浩氏(大阪大学教授)と人工生命研究者の池上高志氏(東京大学教授)に声をかけ、「音楽」「ロボット」「人工生命」の3分野が融合した。

 主役のマエストロは「オルタ2」。2016年に石黒氏と池上氏がタッグを組んで制作したアンドロイド「オルタ1」の進化版だ。今回も石黒氏がハード面を、そこに搭載するAI(人工知能)の自律型運動プログラムを池上氏が担当し、歌いながらオーケストラを指揮するという、唯一無二のアンドロイドが完成した。

 約1時間にわたって披露されたのは渋谷氏が作曲した全4曲で、うち1曲は初演の新曲。「オルタ2」は、渋谷氏が作家の三島由紀夫や哲学者のヴィトゲンシュタインなど、20世紀を代表する「アウトサイダー」の作品から抜粋した歌詞をつけて歌った。演奏はピアノ担当の渋谷氏のほか、国立音楽大学の現役・OB有志のオーケストラ約30名が行い、会場は超満員。盛大な拍手に包まれた。

 実はこの公演、同館で開かれている「ALIFE2018」(人工生命国際会議、7月23~27日)のプレイベント。人工生命とは、コンピューター技術などを駆使して人工的に「生命体」をつくり、「モノ」を「生命体」へと変化させる決定的なファクター、つまり「生命とは何か」を追究する分野だ。池上氏は日本における第一人者で、「オルタ」のようなロボットや「油滴の実験」などを通して、そのファクターに迫ってきた。アルカリ性の水溶液に無水オレイン酸という油滴(油状物質)を垂らすこの実験では、油滴が人間と同じように化学反応によって動き始めるという。

 そして石黒氏もまた、人間そっくりなロボットの制作を通して「人間とは何か」を問い続けてきた一人だ。

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