2005年に著した『Jポップとは何か』(岩波新書)ではっきり否定したのに「CDが売れないんですって? 音楽産業は大不況なんですね」とまだ尋ねられる。
昨年「渋谷系」という言葉の発祥の地であるCD店「HMV渋谷店」が閉店した時も、大騒ぎだった。テレビ朝日が私のところに取材に来てくれたので、「CDが売れなくても音楽不況ではないんですよ」「音楽業界はむしろ活発になっています」と繰り返し強調したら、「えっ! そうなんですか!」と仰天されてしまった。
(ちなみに、その取材は最終的にオンエアされたら「CDの退潮は音楽産業の危機の象徴」という論調になっていたので、そのまま突っ切ってしまったようだ。まあ、目くじらを立てるようなことではないのだが)
誤解を訂正してヘトヘトになっているうちに気付いたことがある。「レコードという物体=音楽そのもの」という認識がいかに根強いかという事実だ。
無理もない。エジソンが蓄音機を発明した1877年から134年間「レコード」(文字通り「記録」という意味)と言えばアナログ時代からCDに至るまで「音を記録した媒体」のことだった。アナログにせよデジタルにせよ、これまでは「丸いディスクが目に見える物体」として存在した。
それが134年目にして初めて、まったく見えなくなるのだ。そういう「レコードとは何か」という認識をまったく塗り替えてしまうような、新しい音楽記録(ここでは便宜的に「データ」と呼ぶ)の時代の到来を、私たちは目撃している。
レコードの生産額は減ったが「著作権使用料」は増えている
「CD不況ではあるが、音楽不況ではない」事実を分かりやすく説明する指標として、私がいつも挙げているのは、別に秘密の数字でもなんでもない。業界団体が毎年公表している2つの数字だ。
1つは「日本レコード協会」の「オーディオレコード総生産金額」。毎年のCD、DVD、アナログ盤など「音楽を記録した商品すべて」がメーカーからどれくらい卸されるかの金額だ(注:日本レコード協会が網羅しているのは、同協会に加盟しているいわゆる「メジャーレコード」会社の数字。またディスクも「日本盤」のみ。「輸入盤」は含まれない)。
もう1つは「音楽著作権使用料」の取り扱い金額。これは「日本音楽著作権協会(JASRAC)」が毎年公表している。ラジオ・テレビで音楽が使われたり、カラオケで歌われると、その著作権を持っている人や会社に支払われるお金である。
「オーディオレコード」(=いわゆる「レコード」)の生産額から見てみよう。
この金額が戦後最高を記録するのは、1998年。金額は6075億円だ。100万枚単位で売れた「ミリオンセラー」アルバムが1年に「28」も出た「Jポップ」の黄金時代である。