今やれっきとした「大国」となった中国において、かかる事象は中国に対するマイナスイメージを助長するだけであるが、習近平政権にそんな配慮をする余裕さえなかったのだろう。
ただし、「反腐敗」で要人の失脚に慣れてしまったのか、外国の反応は大きくはなかった。同じことは、7月13日に死去したノーベル平和賞受賞者である劉暁波についても言える。中国当局は、患った肝臓がんを末期になるまで放置し、本人が希望した外国での治療を拒絶したまま瀋陽の病院で亡くなった。これも中国のマイナスイメージを助長するはずだったが、人権問題に関心の薄いトランプ米政権の反応は鈍く、いわんや国内政治の混乱に明け暮れる日本の安倍政権もまともな反応を見せていない。国際的な中国に対する強い“逆風”は発生せず、いわば中国の“思う壺”で事態は収束しつつある。
「後継者潰し」の一環か
孫政才の失脚は、突然の事態であったにもかかわらず、香港筋その他の報道では「さもありなん」という受け止め方であった。もともと習近平政権の人脈とは対立する江沢民派によって引き上げられた人物だから解任された、という見立てである。
現在のところ、孫政才の「罪状」は、失脚した「薄煕来・王立軍の害毒除去が不十分」であったこと以外明らかになっていないが、即座に後任として陳敏爾が当てられたことから判断して、「邪魔な孫政才を外し、陳敏爾を政治局入りさせる」のが本来の目的だったのだろうと推察できる。孫政才の「罪状」はいずれ明らかにされるだろうが、深刻な腐敗案件があったようにはみえない。
さらに言えば、孫政才は胡春華・広東省党委書記と並び称される「習近平の後継者候補」であったことから、いわゆる「後継者潰し」の一環でもあった。両者はともに、党大会開催が11月であるとして、その時には54歳で、5年後に後継指名されて10年の任期を全うできる年齢である。