マティス米国防長官は拷問禁止を支持、国防総省が発表

米首都ワシントンで開かれた上院軍事委員会で、国防長官の指名承認公聴会に臨むジェームズ・マティス氏(2017年1月12日撮影)〔AFPBB News

 現在の世界は中国の台頭に伴い、米中露の3極鼎立時代になりつつある。その中で、中露は近年協調姿勢を強めており、ドナルド・トランプ米新政権はその対抗戦略の構築を迫られている。その中で、日本はどのような地位にあり、何を求められるのであろうか?

1 バランス・オブ・パワーの趨勢

 バラク・オバマ前大統領は、米国はもはや世界の警察官ではないと宣言し、トランプ大統領も選挙戦の最中、「米国は弱くなった。もう日本や韓国などの同盟国を守れなくなった」と述べている。

 このような言葉に表される米国のパワーの相対的な低下の実態は何かを知るには、GDP(国内総生産)と軍事費の推移が良い指標となる。

 IMF(国際通貨基金)統計によれば、冷戦崩壊直後の1992年当時、米日中露の名目GDPが世界に占める比率は、26.1%(6兆5383億ドル)、14.4%(3兆8531億ドル)、2.0%(4957億ドル)、0.36%(919億ドル)であった。

 また独仏伊英各国は2兆1000億ドルから1兆3000億ドルの間で、これら欧州の主要4か国の名目GDPの合計比率は24.4%(6兆1292億ドル)であった。

 日米のGDPの合計は中露の合計の17倍、米国は中露合計の11倍となる。欧州主要国の合計はロシアの67倍あった。日米欧合計で世界の64.9%を占め、中露合計の2.4%を圧倒していた。日米欧の経済的優位性は、当時ゆるぎないものであった。

 それに対し、2015年の各国の名目GDP比率(名目総額)は24.5%(18兆377億ドル)、5.6%(4兆1242億ドル)、15.2%(11兆1816億ドル)、1.8%(1兆3260億ドル)となっている。独仏英伊の合計額比率は、13.6%(10兆460億ドル)である。

 日米の合計は中露の1.8倍、米国単独では中露の1.4倍になり、欧州主要国のロシアに対する倍率は7.6倍に縮小している。それでも欧米を合計すれば、ロシアの21.2倍になる。

 日米欧のGDP合計比率は43.7%に低下し、他方の中露は17.0%に上がっている。日米欧のGDP合計は中露に対し27倍あったものが、23年間に2.6倍にまで縮まった。

 なお、日本の世界のGDPに対する比率は1995年に17.6%まで高まったのち、2010年には30年前と同じ8.5%に低下し、その後も低迷を続けている。日本の内閣府の予測では、このままでは2030年頃には4.4%まで低下すると予想されている。

 以上の推移から、以下の特徴が伺われる。

①米国のGDPは依然として世界の約4分の1弱を占め、世界第1位の経済力を維持している。ただし、その比率は徐々に低下傾向にある。

②中国の経済成長ぶりは目覚ましく、GDPは23年間で22.6倍になり、米国に対し0.63倍にまで迫っている。世界に対するGDP比率は7.6倍に急増した。

③ロシアは経済的にソ連崩壊直後の破たん状態から立ち直ったものの、依然として経済は弱体であり、欧州と米国が結束すれば経済的には十分に封じ込めることができる。

④欧州も日本も経済的な比率は低下傾向にあるが、欧州主要国合計比率は約1.8分の1に低下したのに対し、日本は2.6分の1と大きく低下している。日本のGDP比率は今後も低下し続ける可能性が高い。

⑤日米の合計比率は中露に対し17倍の優位にあったものが、1.8倍に大幅に縮小している。

⑥中露の経済力格差は、5.6倍から8.4倍に拡大した。ロシアは経済的に中国に対抗できず、対中配慮を優先せざるを得ないとみられる。

 このように、日米欧の世界経済における優位性は失われつつあり、半面中国が目覚ましい経済成長を遂げている。中国が今後「新常態」と呼ばれる安定成長に移行したとしても、その世界経済に占めるシェアは拡大を続けるであろう。

 平均5%で成長が続けばGDPは10年で1.6倍に増加し、2030年頃までに米国を追い抜く可能性もある。

 軍事費の推移についても、同様の傾向がみられる。

 SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の見積りによれば、1992年の世界各国の軍事支出額は、米国5148億ドル、日本445億ドル、中国284億ドル、ロシア576億ドル、フランス678億ドル、英国611億ドル、ドイツ578億ドル、イタリア362億ドル、欧州主要国計2229億ドルである。

 2015年では、米国5955億ドル、日本463億ドル、中国1997億ドル、ロシア911億ドル、フランス607億ドル、英国597億ドル、ドイツ470億ドル、イタリア285億ドル、欧州主要国計1959億ドルとなっている。

 1992年に対する2015年の伸び率は、米国1.15倍、日本1.04倍、中国7.03倍、ロシア1.58倍、フランス0.90倍、英国0.98倍、ドイツ0.81倍、イタリア0.79倍、欧州主要国計0.88倍である。

 軍事費の絶対額では、米国が依然として第1位だが、比率的には微増にとどまっている。他方で、中国が23年間で7倍を超える急増ぶりを示している。

 ロシアも経済規模はそれほど大きくないにもかかわらず、ウラジーミル・プーチン政権下で軍事費を急増させている。ただし、ロシアの軍事費は、それでも中国の半額、英仏の1.5倍に過ぎない。他方、米同盟諸国の日本は微増、欧州主要国は減少している。

 この結果、欧州主要国とロシアの軍事費比率は、1995年の3.9倍から、2015年には3.4倍に、米国対中国の比率は18.1倍から3.0倍に、日米欧対中露の比率は、9.1倍から2.9倍に縮まっている。

 このように、中国の急伸により米国との軍事費格差は急速に縮小している。またロシアも増加した結果、ほとんど軍事費を増やしてこなかった米欧日に対して、中露両国の合計軍事費は9倍から3倍への格差縮小を達成している。

 このようなバランス・オブ・パワーの変化が、米国が世界の警察官の座を降りざるを得ない、あるいは、同盟国を守り切れなくなっているという、前記のオバマ、トランプ発言の背景にある。

 また、欧州同盟国の防衛費は減少し、日本も微増にとどまっており、同盟国の防衛努力不足が米国側の不満を招いていると言える。