──これにより、どんな成果が出ているのでしょうか。
稲垣 包括的なケアのお陰で健康な身体を取り戻し、要支援から脱する人が増加したり、要介護の付かない高齢者が増えたりと、実績は出ています。また、ケアマネージャーなどからすれば、医療関係者と接する機会は貴重で、関係者の認識も変わってきているようです。
──新たな地域自治システムを生むには「既存の機関と連携することが大切」と稲垣先生はおっしゃっていました。まさにこれはその一例だと思います。ただ、その連携を生む作業は簡単ではありません。なぜ臼杵市は成功したのでしょうか。
稲垣 1つは、臼杵市の行政と医師会の関係がもともと良好で、連携を取りやすかったこと。加えて、やはり以前話したように、システム構築の「キーパーソン」がいたことです。
市側(行政)のキーパーソンとしては、厚労省から出向していた西岡隆さんらが、地域包括ケアの発起やプラン作りを進めました。さらにもう1人は、医師会の事務局員であり、市に出向していた石井義恭さん。行政も医師会も知る石井さんの存在が、関係者間のネットワークづくりに大きな役割を果たしました。
──一方の医師会も、キーパーソンによる積極的な動きがあったのでしょうか。
稲垣 はい。臼杵市には唯一の大型病院となる医師会病院がありますが、そこに勤務されている舛友一洋先生が積極的に地域と医療の連携を進め、中部保健所の医師であった藤内修二さんが地域ケア会議の設置や運営に中心的な働きをされました。
「うすき石仏ネット」で、住民の医療情報をクラウド化
──こういった臼杵市のネットワークづくりは、さらに発展を見せているのでしょうか。
稲垣 地域ケア会議の場合は、「すでに介護を受けている人」の情報を共有するものです。臼杵市ではさらに、今まだ在宅にいる人、いわば“予備軍”となる人の情報も共有し、在宅医療を充実させる「プロジェクトZ」を進めています。