10月5日、今年度のノーベル賞のトップを切って、物理学賞受賞者が発表された。翌日の日本経済新聞の報道では「ノーベル物理学賞 英大学の2氏に 炭素新素材『グラフェン』開発」とある。
ノーベル物理学賞は英大学のロシア人研究者2人が受賞
「英大学」の2氏とはマンチェスター大学に所属するアンドレ・ガイム氏(51歳)とコンスタンチン・ノボセロフ氏(36歳)である。筆者はこのニュースをモスクワのテレビニュースで知ったのだが、受賞者の名前を聞いてある記憶が甦った。
筆者はガイム氏の名前は聞いたことがなかったのだが、ノボセロフ氏の名前はその若い年齢とともに記憶がある。
それはもう4~5年前のことになる。筆者の投資先であるロシアの有機素材開発会社のパーベル社長からその名前を聞かされたのだ。
そのパーベル社長は、光学フィルム素材、有機薄膜太陽電池素材を開発すると同時に、自身の研究開発ビジネスの最終目標としグラフェン応用素材の開発を掲げていた。
彼はいかにグラフェンが優れた電気特性を持ち、未来の半導体素材として有望であるか力説したのだが、当時はインターネットで検索してもグラフェン(graphene)でヒットするのは専門的な論文ばかりで、門外漢の筆者には恥ずかしながら全く理解しがたい領域であった。
鉛筆とセロハンテープでグラフェンの分離に成功
にもかかわらず、なぜノボセロフ氏の名前を覚えていたかと言うと、パーベル社長は同社の研究開発に関しノボセロフ氏にアドバイザーをお願いしていること、そして彼がいかに若く優秀なロシア人科学者であるかを力説していたからである。
パーベル社長自身も分子化学の分野ではそれなりに名前の知られた人物ではあり、彼がそこまで賞賛するということは、よほど素晴らしい業績を上げた人物に違いない。
その場の好奇心を抑えきれず、パーベル社長に尋ねてみた。「ノボセロフ氏はいったいどんなすごい業績を挙げたのですか」と。
「彼は鉛筆とセロハンテープで、それまで不可能と言われていたグラフェンの分離に成功したんだよ」