白川方明日銀総裁は9月26~27日に神戸・大阪に出張し、2つの講演を行った。26日は、神戸大学で開催された日本金融学会の2010年度秋季大会で、「中央銀行の果たす役割」と題して講演。27日は、大阪で開催された地元経済4団体共催の懇談会に出席して挨拶(講演)「最近の金融経済情勢と金融政策運営」を行った。

 これら講演の直前である9月25日に、毎日新聞は1面で、「日銀来月追加緩和へ円高警戒、米より前に」と報じた。日銀は米国に先駆けて「10月に追加の金融緩和策を実施する方向で調整に入った」「具体策としては、超低利資金を供給する『新型オペ』の再拡充や長期国債買い取り増額が見込まれるほか、資金供給量の拡大に着目して、2001~2006年に実施した量的緩和策を再導入することも検討課題になる可能性もある」という。

 一方、日経新聞は白川総裁が9月26日の講演を終えた段階で、翌27日、「『量的緩和』要請強める 政府、日銀に 円高・デフレ対応急ぐ 『G7前』求める声」と報じた。「政府が日銀に対し、市場に潤沢な資金を供給する『量的緩和』を含む思い切った追加緩和策を早期に検討するよう水面下で働きかけを強めている」「日銀も必要なら追加緩和に動く構えだが、景気や金融市場の動向など不透明要因が多く、難しい判断を迫られる見通しだ」という。

 白川総裁が9月26日の講演後の質疑応答で行った整理によると、26日の講演は「かなり専門的な話や中長期の話」で、27日の講演は「もっぱら短期的な話に絞って」行われた。

 9月26日の講演内容で筆者が注目した部分は、以下の通りである(日銀公表の要旨から引用、下線は筆者)。

【インフレ目標の難点と、日銀が採用している仕組みの「先進性」】

「(インフレーション・ターゲティングの)この『分かりやすさ』は政策のアカウンタビリティを高めるという点では長所ですが、金融政策が物価以外の形で表れる不均衡にも対処する必要が生じた場合には、説明を難しくすることを通じて、短所にもなり得るものです」

「因みに、日本銀行は『中長期的な物価安定の理解』という形で物価安定の数値的定義を明らかにしたうえで、いわゆる『2つの柱』による金融政策の点検を行っていますが、これは『フレキシブル』という要素を体系的に行う先進的な工夫です」

「日本銀行の現在の金融政策の枠組みはアカウンタビリティの向上というインフレーション・ターゲティングの長所を最大限取り込むと同時に、その欠点と見なされている部分にも対応したものです。日本銀行としては、望ましい金融政策運営の枠組みについては今後とも検討を行っていく方針ですが、現在の枠組みは、より進化した枠組みであると自負しています」