日本のリゾートを次々と再生させている星野リゾートは、リゾートで提供する食にも力を入れている。その地域ごとに特徴があり非常に高い品質の食を宿泊客に提供することが、リゾート産業を発展させるために不可欠と考えているからだ。

日本を高級ワインの生産地に!

高級ワインリゾートを目指すリゾナーレ(この写真の撮影:川嶋諭)

 その中で、最近、特に力を入れ始めたのが日本のワインである。ワインと言えばフランスやイタリア、ドイツ、スペインなどの欧州や米国のカリフォルニア、南米のチリ、オーストラリア、南アフリカなどを思い浮かべるが、どっこい、日本もワインの一大産地になろうとしている。

 日本のような湿潤な気候はワイン用のブドウ栽培にはあまり適さないと思われていたせいか、既に大産地となっているワイン王国には到底かなわないと思っていたからか、これまではあまりワイン生産に本腰が入っていなかった。

 しかし、ここ10年あまりで日本のワインは格段に進歩を遂げている。栽培方法に工夫を凝らし、世界市場に出しても遜色ない素晴らしいワインが造られ始めている。

 星野リゾートの星野佳路社長はこう話す。

 「フランスのワインが有名になったのは、フランスに旅行に来てフランスワインに惹かれた観光客が、お土産に持って帰って世界中に広めたからなんです」

 「日本にもそのチャンスは必ずあると信じています。これからさらに手を加えていけば、例えば、星野リゾートで食事の時に堪能してもらった日本のワインを、それも1本1万円するような高級ワインをお土産に買ってもらえるようになる可能性は十分にある」

星野社長が惚れ込んだ女性

 その星野社長が惚れ込んだ女性がいる。もちろん、奥さんとは別の意味で。池野美映さんである。若くして日本を代表するワイン醸造士の1人だ。フランスの国家資格であるワイン醸造士の資格も持つ。

 池野さんは今から3年前、星野リゾートが運営する山梨県小淵沢にある高級リゾート、リゾナーレのすぐ近くにあった桑畑をワイン畑に改良、約2ヘクタールの土地で葡萄の木を栽培し始めた。そして2009年6月には農業生産法人レ・パ・デュ・シャを立ち上げて代表となった。

 現在、赤ワイン用にピノノワールとメルロー、白ワイン用にシャルドネを栽培している。2007年に3300本、2008年に2200本、2009年に800本を植樹した。

 収穫した葡萄からワインがようやく作れるようになり、わずかながら出荷も始まった。星野社長はその出来栄えに満足の様子だ。

 その証拠に、出来上がったワインを試飲しながら、池野さんは「売価2500円くらいで愛好家に満足してもらえるワイン造りをまずは目指します」と謙虚に話す一方で、星野社長は早くも「1本1万円のワインもいけるんじゃない」と期待を込める。

 日本を世界的に有名なワイン産地にしたいと意気込む池野さんと高級ワインリゾートを目指す星野社長。作る側と売る側が二人三脚で進めるワイン作りは、今まで考えられなかったような新しい発展を予感させてくれる。(次ページから連載第1回)

(以上、川嶋 諭)