米国の各マーケットで、「8月10日前後への回帰」が見られている。8月10日とは、言うまでもなく、米連邦公開市場委員会(FOMC)が市場から買い入れて保有しているMBS・GSE債の償還資金を米国債に再投資する措置、米連邦準備理事会(FRB)のバランスシート縮小による「意図せざる金融引き締め」を防ぎ、バランスシートの規模を維持することを狙った、事実上の追加緩和措置を決めた日である。
9月13日月曜の米国市場では、主要株価指数が4日続伸となった。バーゼル銀行監督委員会が決定した銀行の新しい自己資本比率規制「バーゼルIII」が無理のない内容で、しかも十分な猶予期間が設けられたことが好感され、銀行株が上昇。中国の鉱工業生産が前年同月比伸び率を拡大したことも、グローバル経済の先行きに対する安心感につながった。ニューヨークダウ工業株30種平均の終値は1万0544.13ドル(前週末比+81.36ドル)になった。8月10日(1万0644.25ドル)以来の水準である。
同日の原油先物市場では、ウェストテキサスインターミディエート(WTI)の中心限月である10月限が1バレル=77.19ドルで取引を終了した。これは中心限月の終値としては、8月11日(78.02ドル)以来の高値である。
これより前、9月10日金曜の米債券市場で、米10年債利回りは一時2.81%まで上昇した。これは8月10日以来の高水準である。早期追加緩和の思惑・期待・ムードが先行する形で、いわば前傾して買い進まれていた米債券相場は、この時点でいったん「振り出しに戻った」ものと、筆者は認識している。その後、週明け9月13日に、米10年債利回りは一時2.84%まで上昇する場面があったものの、押し目買いから切り返し、一時2.72%まで低下した。
ただし、8月10日時点の米長期金利の水準を振り返ってみると、米30年債利回りは4%前後で推移していた。9月10日時点では3.89%前後までしか上昇しなかったので、米国債の超長期ゾーンについては金利の水準面から調整未了感が残っているのではないかと、筆者は考えている。
固定利付債とインフレ連動債の利回り格差から算出されるマーケットベースの期待インフレ率(BEI)についても、「8月10日前後への回帰」が見られている。FRBのホームページ上のデータから計算すると、10年物のBEIは9月10日時点で1.79%。これは8月10日(1.84%)以来の高水準である。8月には一時1.5%を割り込む場面も見られていたが、原油先物の反発や「日本型デフレ」シナリオへの警戒感後退から、BEIは急速にリバウンドした。
では、振り出しに戻った米国の各市場は、今後どちらの方向に動いていくのだろうか。
当面は不安定な上下動が続くことは避けられないだろうし、目先の節目にはまだ到達していないと考えられる市場もある(米30年債利回りの4%や原油WTI先物の80ドル)。また、過剰な悲観に傾いていた市場のムードが、今度は過剰な楽観へと傾いていかない保証はない。9月13日には、米著名投資家のウォーレン・バフェット氏がブルームバーグに対し、「米経済が二番底に陥る見通しはまったくない。企業はほぼ全面的に回復しつつあり、1~2カ月前と比較して企業の採用も増えている」と語っている。
しかし、米国で大きなバブルが崩壊したという事実に変わりはない。過剰に上下に振れているのは、市場の思惑である。米国経済はこのまましばらく、「入院したまま加療・リハビリを続ける」ことになるだろう。米国の金融政策は、景気下振れリスクが増大した場合の米国債購入上乗せという追加緩和シナリオを意識しつつ、超低金利政策がこのまま長期化する可能性が高い。したがって、米長期金利の上昇には遅かれ早かれ歯止めがかかることになるだろう。また、米国ひいては世界経済の本格回復が遠いことからすれば、米国株の上昇にも、自ずと歯止めがかかることになるだろう。
国内では、債券相場が安定感を取り戻すための「足場固め」は、足元で難渋している印象が強い。9月決算期末が近づいており動きが取れない投資家も少なくないためか、9月10日に行われた5年債入札は、予想外に低調な結果だった。さらに、同日の欧米債券市場では、独2年債利回りが0.75%、米2年債利回りが0.58%にそれぞれ上昇する場面があるなど、安定感に欠ける、というよりもイールドカーブの起点近くの金利が不安定化する展開だった。しかし、東京市場では、例えば10年債については1.2%近く、20年債については2%近くでは、節目水準とみた投資家からの押し目買いが、9月期末前ではあっても、入りやすいだろう。筆者は引き続き、10年債利回りで1.0~1.2%前後のレンジへと徐々に収斂していく展開を予想している。