政府は9月10日、「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」(PDF)を閣議決定した。為替市場での円高進行をにらみ、8月30日に前倒しで基本方針を決定していた経済対策について、具体的な内容を詰めた上で、正式に決定したものである。

 今回の経済対策は、2つの特徴がある。1つは、名前が非常に長いこと。内閣府のホームページ上で確認できる1998年4月(「総合経済対策」)以降では最も長く、それ以前まで遡っても、おそらく過去最長であろう。もう1つは、事業規模を、投入される国費で割って計算される、経済対策の「レバレッジ比率」とでも呼ぶべき数字が10.7倍となり、過去の経済対策と比べ、突出して高いことである。今回の経済対策では、住宅エコポイント制度の期限延長について、新築住宅の工事費すべてを含めたことなどが、国費と比べた場合の事業規模の水脹れにつながったという。

 今回の経済対策については、財源として経済危機対応・地域活性化予備費の残額(経済対策の本文には9182億円、対策規模を表にした別紙には9150億円程度と書かれている)を活用することが、最初から前提だった。2009年度決算剰余金を活用するなどした補正予算を編成して新たな経済対策の柱にする案に対しては、「ねじれ国会」という厳しい政治状況が障害になっている。

 それでも、政府が事業規模を極力大きく見せようとし、「レバレッジ比率」が10倍超に跳ね上がったということに、実は大きな問題が含まれているのではないかと、筆者は憂慮している。それは、経済に事あるごとに、短期的な景気下支えを主眼とする経済対策の必要論が巻き起こり、金額的に相応に大きな規模で対策を打たなければ力不足だ(あるいは政府の努力不足だ)というような雰囲気が形成されて、実際の政府の行動を規定していくという、1990年代以降に何度も繰り返されてきたパターンから、日本は何も学んでいないということである。

 言うまでもなく、短期的な景気刺激のための財政出動(=財政拡張)と、中長期的な財政健全化(=財政緊縮)とは、逆方向の動きである。本予算でいくら財政健全化を志向しても、経済対策の財源として補正予算の規模が頻繁に膨らむのでは、財政規律をしっかり維持するのは難しい。また、「国債増発してまで打つ即効性の高い景気刺激策は少ない」との財務省幹部コメント(9月10日 共同)は、その通りだろう。それにもかかわらず、野党各党は早期の補正予算編成を連名で要望しており、民主党代表選挙における論戦でも、必要があれば補正予算編成も、という点で、菅直人・小沢一郎両候補の姿勢は一致している。

 過去の経済対策の閣議決定文書を読むと、理路整然と経済に対する効果が説かれており、文章としては実によくできていると感じる。しかし実際には、日本の名目GDPは1990年代半ば以降、横ばいから縮小という、「パイが拡大しない経済」構図に陥っている。その間、政府の借金は一段と積み上がったという厳然たる事実の重みを、いま一度かみ締める必要があるのではないだろうか。