ウクライナの西隣に旧ソ連構成諸国の1つであるモルドヴァ(他記事ではモルドバとも表記)共和国がある。
モルドヴァの東部にはドニエストル川が流れており、このドニエストル川東岸とウクライナ国境に挟まれた細長い地域を沿ドニエストル(ロシア語でプリドニエストローヴィエ、モルドヴァ語でトランスニストリア)と呼ぶ。
ソ連末期、モルドヴァ民族主義政策への反発を強めた沿ドニエストルのロシア語系住民らは、「沿ドニエストル・ソヴィエト社会主義共和国」(後に沿ドニエストル・モルドヴァ共和国〔PMR〕へと改名)として独立を宣言した。
ソ連崩壊後の1992年には、現地に駐留していたロシア第14軍の支援を得てモルドヴァ軍と交戦し、現在に至るまで事実上の独立状態を保っている。もちろん、戦闘がやんでいるというだけで国際的な国家承認は受けていない。「凍結された紛争」と呼ばれるゆえんである。
現在、沿ドニエストル側が主張している「国土」は、面積4160平方キロに及び、モルドヴァの国土の12%を占める。
人口は50万9000人ほどに過ぎないが、ソ連時代から重工業化が進められて来た結果、モルドヴァ冶金工場(MMZ)や発電能力2520MW(メガワット)ものモルドヴァ地区発電所(MGRES)などがあり、モルドヴァの国内総生産(GDP)の15%を占める。
沿ドニエストルにおけるロシア軍のプレゼンス
沿ドニエストルの紛争を「凍結」させ、事実上の独立状態を担保しているのは、現地に駐留するロシア軍である。
前述のように、沿ドニエストルの独立にはロシア第14軍が大きな役割を果たしたが、現在はこれが大幅に縮小され、2個大隊を基幹とする「モルドヴァ共和国沿ドニエストル・ロシア軍作戦集団(OGRV PR RM)」(以下、OGRV)となった。
OGRVの兵力は約1000人とされ、軍事プレゼンスとしての規模はごく小さなものだが、仮想敵であるモルドヴァ自体が4個旅団から成るごく小さな陸軍しか保有しないこと(モルドヴァは欧州最貧国の1つである)に加え、そこにロシア軍が存在しているという事実そのものに政治的な価値を見い出しているのだろう。
さらにロシアはOGRVとは別に、ロシア、モルドヴァ、沿ドニエストルの3者で構成する合同平和維持部隊にも約500人の兵力を拠出している。つまり、都合1500人のロシア軍が沿ドニエストルには展開していることになる。