ロシア政府の試算によれば、8月に発生した干ばつによって、今年度のGDPは0.4~0.8%引き下げられそうだ。ロシア経済発展省は今年度の経済成長率を4%台と予想していたが、実際には3%台になる公算が大きい。
今年度のインフレ率は6%台と見られていたが、実際に8%台になるかもしれない。この8月は、1カ月だけで食料品が次のように大きく値上がりした。例えば、そば粉が33.1%、小麦粉が11.1%、卵が7.1%、砂糖が5.9%、ミルクが4.8%の値上がりである。
穀物は耕作地の4分の1が不作となり、農業は10億ドル程度の損害を被った。家畜用飼料の価格は高騰したのに、肉類の価格はまだ上がっていない。それは、インフレに時間的なズレがあるからで、これからつり上がっていくだろう。干ばつによる被害は、これから半年ぐらいは続くと予想される。
財政赤字は今後も続く
天候の影響だけではない。ロシアの経済成長が鈍くなった理由は、他にもある。
ロシアの経済成長を促す要素(個人消費、投資需要、外需)はどれも力が弱い。だから、ロシアの経済専門家は、中国を見習って政府の支出を拡大することが経済成長の決め手だとしている。
ロシア政府も同様の考えである。8月末にプーチン首相は「ロシア経済は危機からまだ脱却していない。今後も危機対策に緊急予算を振り分ける特別措置を取っていきたい」と語った。
ロシア財務省のクードリン大臣は、これから3年間(2011~2013年度)は財政赤字がなくなることはないとの声明を出した。
クードリン大臣はG20の会議で毎回、「財政赤字を減らすよう一生懸命取り組む」と公言している。だが、ロシア経済発展省は、これからの3年間、予算は毎年GDP比で2~3.6%の赤字となるだろうと見ている。ただし、EU諸国の平均は6.0%強の赤字なので、それと比べたら低い方である。
政府が財政赤字の現状を改善しようとしないのは、経済的な背景のほかに、政治的な動機も強いと思われる。
今後3年の間にロシアでは議会と大統領の選挙がある。最近、政府当局の人気は顕著に下がっている。現政権が存続していくためには、政治体制、外交、国家安全問題、治安悪化、汚職など様々な問題を解決しなければならない。政治体制の民主化に関しても、メドベージェフ大統領は「今すぐにでも大胆に取り組まなければならない」としている。
だが、プーチン首相は「今のロシア経済は過渡期にある。過渡期が過ぎ去って経済が成熟した時になれば、また別の政治運営の方法が必要となるだろう」と語り、現政権に問題はないと考えている。