7つのケーススタディー最終回は、マクロ・定量視点も少し交えながら、「生産拠点としての中国」「消費市場としての中国」の先にある「R&D拠点としての中国」の可能性を論じてみたいと思います。
「ビジネストリップ型経営」のリスク
DI 板谷:前回は、Zeppが中国で開発した先端テクノロジーを起点に、「欧米人CEOのヘッドハント」「サンフランシスコへの本社移転」というドラスティックな打ち手によって、主戦場である北米展開を大胆に推進してきたことをお伝えしました。
そして、特に「販売・マーケティング組織の現地化」という部分について、非常にエッジの立ったやり方ではあるものの、大きな方向性には共感する声も多くいただきました。
LC 朴:「欧米人をCEOにヘッドハント」という事象だけ見ると、やや唐突にも思えるでしょう。
ただ、「最大市場である米国で組織の現地化を!」という意識と、創業者がキャリア上で培ってきた「欧米系の人脈・ネットワーク」が重なり合って生まれた英断だったものと思います。
この部分で、私があえて1つ付け加えておきたいことがあるのですが、いいでしょうか。
それは、「ビジネストリップ型経営」では上手くいかないということです。
DI 板谷:といいますと?
LC 朴:経営の意思決定者が現地に住まずに、年に数回の出張で現地を分かった気になり、経営事項を判断してしまう。こういうケースです。もちろん、現地には駐在員がいるのですが、任期が決まっている中で、そこまで現地に根を生やすのは限界もあるし、身も入らない。
さらに、最終的な意思決定が本社となると、構造的に「現地は本社が報告して欲しいことを言う」だけのレポートラインができあがってしまいます。韓国企業の多くの失敗例は、実はこうした課題にも起因しています。きっと日本企業でも、類似の事例は多く見られるのではないでしょうか。
DI 板谷:はい。私はそうした症状を「情報ナシナシ病」「誤報アリアリ病」と呼んでいます。
とあるプロジェクトのご提案段階において、クライアントである大企業とのお打ち合わせに同席したときのことです。DIから中国展開の現状についてヒアリングをさせていただく中で、中国事業責任者のあまり的を射ない質疑にしびれを切らせた役員の方が思わず発した一言が、
「市場規模はどれくらいだ? 競合の売上は一体いくらだ?? 誰かこの簡単な質問に答えられる奴はいないのか!?」。
LC 朴:それは、かなり深刻な症状ですね・・・。
DI 板谷:結局、事業計画策定時に作った楽観的な市場試算をアップデートせず、また、急激に台頭するローカル競合の存在からも目を背けてきたのです。私たちはこうした部分に、市場の正しい理解をサポートする形から入ることが多いですが、根本的には朴さんがおっしゃるような課題もありますね。