怯えるわんこ

 幼い頃、近所で飼われている傷だらけの犬がいた。よくうちに来ては一緒に遊んだのだが、なぜ飼い犬なのにこんなに傷だらけなのだろうかと幼いながらに疑問に思っていた。

 ある日、その犬が飼われている家の前を通ると、「キャンキャン」と犬が泣く声が聞こえてきた。何事だろうと思って見に行くと飼い主が犬を木の棒で叩いていた。

 その時、なぜこの犬が傷だらけなのかが分かった。悲しそうな眼で飼い主を見つめながら、その犬は怯えていた。

 後日、その犬が飼い主と一緒にいるところを見かけた。飼い主の機嫌を伺おうとしっぽを振ってすり寄っていた。傷つけられても傷つけられても、飼い主のために献身的なその姿を見ると涙がこぼれそうになった。

 今回も第11回から引き続き、感情についての理解を深めるための話をしたい。今回のテーマは感情と健康についてである。

非力な存在であり続けた人類

 約400万年の人間の歴史において、そのほとんどの時代、人間の天敵は肉食獣だった。大きな牙も爪もなく、腕力も脚力もない人間は非力な存在であり、肉食獣の格好の餌食だった。

 しかし、現代、人間は自然界の生態系から脱し、天敵と呼べる外敵はいなくなった。現代の主な死因は、心臓病、がん、脳卒中であり、この病の主な原因はストレスである。

 「脳内革命」(春山茂雄著:サンマーク出版)によれば、人間は怒りや緊張を覚えると、脳内にノルアドレナリンという蛇の毒に匹敵する毒性を持つ物質が分泌されるという。

 怒りや緊張を感じることにより、この猛毒が体を蝕んでいく。こういったネガティブな感情が現代の人間の天敵となっている。

 現代人にとって、天敵は自らの外にいるのではなく、自らの内にいるのである。