米国の国防総省が8月中旬に、中国の軍事力に関する年次報告を公表した。この報告は、中国が依然、多角的で大規模な軍拡を続けていることを明記していた。
私たちにとっては、この中国の軍事動向が日本の安全保障にとってどのような意味を持つのかを考えることが最重要課題の1つだろう。
だが、報告には、日本にとっての意味は正面からは何も書かれていない。書かれていることが重要なのは当然だとはいえ、書かれていないことの重みにも考えを至らすべきだろう。
見え隠れするオバマ政権の遠慮とためらい
オバマ政権の「中国の軍事力」報告には、そんな読み方が特に必要なようなのだ。何よりも今回の報告には、オバマ政権の中国に対する屈折した「ためらい」がにじんでいた。
まず、米国の行政府、つまりこの場合、国防総省が中国の軍事力についての詳細な報告を毎年、議会に送って公表することは、2000年度以来、法律で義務づけられ、これまで毎年3月に公表されてきた。だが、今年は半年近くも遅れて、8月の公表となった。
公表が遅れた理由は、政権内部で米中関係全体への影響を巡って、従来どおりの報告が直截に出されることへの是非論が戦わされたことだとされた。
しかも、従来は明快に「中国の軍事力」とされていた報告のタイトルも、今回から「2010年の中華人民共和国に関する軍事・安全保障の動向」へと変えられた。
観察の対象を単に軍事力だけでなく、安全保障一般にまで広げたという意味なのだろうが、その一方、中国の軍事力がいかに着実に増強されていても、軍事だけを見るわけではないのだという遠慮が窺われた。
このように、この報告を読む際は「書かれていない部分」への注意を払わないわけにはいかない。
大規模かつ多角的に増強している中国の軍事力
しかし、明記された部分だけを見ても、中国の軍事力が大規模かつ多角的に拡張と増強を重ねていることは否定のしようがない。
公表された部分の国防予算だけでも、ここ20年ほどで平均して毎年10%以上の増額を続け、2010年度も8パーセント増額した。