中国や北朝鮮の核攻撃から日本を守る「核の傘」が揺らぎ始めた――。こんな警告が米国の国防総省機関から発せられた。
日本における最近の安全保障論議ではまったく触れられない重要な問題である。国防総省のシンクタンクとも言える米国防大学の国家戦略研究所(INSS)が、この3月に作成した調査報告書のなかでの指摘だった。
核抑止を他国にも拡大して提供する「拡大抑止」
「核の傘」とは核抑止のことである。いまの世界の現実の安全保障では、大多数の国は自国を守り戦争を防ぐ手段として、程度の差こそあれ「抑止」戦略に依存している。
抑止とは、ある国が自国に対して武力攻撃を仕掛けてきそうな場合、「武力で断固として反撃し、侵略を砕く、あるいは相手に重大な損害を与える」という意図と能力を明確にしておくことで、潜在敵国の武力攻撃を未然に抑えるメカニズムの戦略である。
戦争のための戦争を行いたいと考える国はない。政治や経済あるいは領土上の目的があるからこそ軍事行動をとるのである。だから、その軍事行動をとった場合のマイナスがプラスよりも大きいと予想されれば、普通の国ならばその行動を抑制する。攻撃を受けそうな側の国からすれば、「相手が攻めてきたら必ず大打撃を与えるぞ」という態勢を明示しておけば、相手の軍事行動を未然に防げる。こうした思考が抑止論なのだ。