英数学者A・チューリングの手稿、香港で公開 4月に米で競売

香港で公開された英数学者A・チューリングの手稿(2015年3月19日撮影)。(c)AFP/Philippe Lopez〔AFPBB News

 マニラからの帰国フライトの中で書いています。空の上では最新の封切り映画ばかり観ていることもあって、たまには映画のことを書いてみたくなりました。南シナ海で起きている真実についてフィリピンの人々からたっぷりと聞かされた後で、少しばかり気分転換したくなったこともあります。

 この3月13日に日本でも封切りになった「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」のことです。英国BBCのテレビドラマ「シャーロック」で日本のお茶の間でも有名となった、泣く子も黙らせんばかりの勢いの、あのベネディクト・カンバーバッチが主役なのだから、みなさん必見です。

 それもカンバーバッチの役回りが、ロンドン北部にあるブレッチリー・パークの政府暗号学校(当時の "Government Code and Cypher School", GCCS、現在の英国政府通信本部「GCHQ」)で、ドイツの暗号機「エニグマ」を解読した立役者、アラン・チューリングという英国の暗号学者とくれば、暗号好きな人(そんな人がいればですが)にもたまらない映画なのです。チューリングこそは、第2次世界大戦の英国による秘密情報戦を可能にした中心的人物だからです。

 チューリングは、英国で言うところの少々「エキセントリック」な人物です。数学の天才で、同性愛者。花粉症のためにいつもガスマスクをして自転車に乗っていたとか、自分のマグカップが盗まれないように鎖をつけていたとか。そして、世界初とも言うべきコンピューター、すなわち「チューリング式ボンブ」として知られる「マシーン」を発明して、エニグマを解読し、戦後にはわずか41歳という若さで自殺してしまうという人生まで。そのような人物でなければ、きっと暗号を解読するマシーンを発明することなどできなかったのかもしれません。

もしチューリングがいなければ・・・

 なぜ、チューリングが人類の歴史で重要なのか。こう問うことが分かりやすいでしょう。

 短い言葉で答えるならば、もしチューリングがいなければ、第2次世界大戦はあの程度の期間では終わらず、戦いが長引き、より多くの犠牲が避けられなかったおそれがあるからです。そう考えると、チューリングが、どれほどの偉業を英国のために、そして連合国、ひいては現在の国際秩序の形成のために成し遂げたかは、よりよく想像できるのではないでしょうか。