オーストラリア東部のブリスベンで開かれていたG20サミットの終了を待たずに帰国の途に着いたロシアのウラジーミル・プーチン大統領に関して、ウクライナ問題に関する欧米勢の非難攻勢を嫌気したのが理由だったとまことしやかな噂が流れた。

孤立無援ではなかったロシア

日米豪3か国首脳会談、ロシアにウクライナ介入停止など求める

G20の首脳会議前に握手する左からバラク・オバマ米大統領、トニー・アボット豪首相、安倍晋三首相〔AFPBB News

 確かに東ウクライナにおける停戦の現況は予断を許さないものがあり、ロシアと欧米の主要な対立点の1つでもあるが、百戦錬磨のプーチン大統領が本当にそんな一時の感情の爆発で帰国するだろうか。

 まず、事実関係から整理してみよう。

 今回のG20サミットの機会を利用して、BRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳も非公式会談を行った。BRICS諸国はこれまでもウクライナ問題においてロシア寄りの立場を明確にしており、その一点においても、ロシアがG20で孤立無援だったと結論するのは無理がある。

 さらにBRICS首脳会議の議論のテーブルに上がったのは、BRICS「新開発銀行」ならびに「緊急時準備基金」に関してであった。

 両機関については2013年の同首脳会議で構想が発表され、今年に入ってから実際の設立へと動き出している。ここでBRICS諸国の設立の意図は明らかであり、それは従来の国際金融の枠組みにおいて、世界の開発銀行の役割を果たしたり、緊急時の備えを補完する機能を持ったりした国際機関の役割が不十分であるという不満の表明である。

 具体的には第2次大戦終了後から存続する国際復興開発銀行や、国際通貨基金が、昨今の世界的な経済情勢の変化を十分に反映していないということだ。

 これに関しては同時に、中国が主導する形でアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立も進められている。

 中国が参加を要請した諸国に対して、米国がその参加を思いとどまるよう要請したという事実も明らかになり、米国と中国の陣取り合戦さながらの動きが、国際金融の世界で進行中であることが浮き彫りとなっている。

 それでもインドを含め、20カ国が参加したのだから、中国の影響力をみくびるべきでははない。一方、今年中の合意が困難になった環太平洋経済連携協定(TPP)の枠組みも、米国を中心とする諸国が中国を除外した形で連携を強化するという狙いがあるから、いよいよ中国と米国の対立が深まっていることが認識できる。