10月31日、日本銀行の黒田東彦総裁は、マネタリーベース(通貨供給)を毎年80兆円に増やすなどの追加緩和を発表した。これは市場の意表を突くもので、1ドルは112円台まで上昇し、日経平均株価も700円以上あがった。「黒田バズーカ2」は、サプライズとしてはまずまずの戦果を上げたが、これで日本経済は回復するのだろうか。

 ウォールストリート・ジャーナルは「黒田総裁にショーマンシップがあることは認めよう。しかし、この緩和政策の魔術の舞台裏はのぞかない方がいい」という意地悪な社説を出したが、その舞台裏をのぞいてみよう。

追加緩和の目的は物価ではない

 黒田氏は今回の追加緩和の理由を「デフレマインド転換のための予防的措置」としている。金融政策決定会合で2015年の物価上昇率が1.7%と下方修正されたのを受けて、このままでは「2015年度に物価上昇率2%」という目標が達成できなくなると考えた、というのが彼の説明だが、これを額面どおり受け取る専門家は少ない。

 これまで当コラムでも説明したように、ここ1年半の物価上昇の最大の原因は日銀の量的緩和ではなく、エネルギー価格(特に原油価格)の上昇である。それが減速した原因も、黒田氏が認める通り「原油価格の大幅な下落」だから、日銀が上げることはできない。やるなら日銀が原油を買い占めるしかない。

 彼の狙いは物価ではなく、円安の促進である。もちろんそれを中央銀行が口にすることはタブーなので、彼は記者会見でも為替にはコメントしなかったが、市場は大きく反応した。

 ちょうど29日に、FRB(米連邦準備制度理事会)は量的緩和の終了を宣言した。来年からは利上げすると見られているので、日本がゼロ金利でインフレ予想が高まると、実質金利(名目金利-インフレ率)はマイナスになり、日米の金利差はさらに開く。

 ドル/円レートは短期的には日米の金利差で決まるので、当面はドルが上がるだろう。問題は、それで何が改善されるのかということだ。