先月24日付けのTUOI TRE誌によれば、ベトナムの民間商業銀行オーシャンバンク(資本金3兆ドン:約1.4億ドル相当)のハー・バン・タム元会長が、金融組織の活動における貸付け規則違反罪(ベトナム刑法179条)の疑いで逮捕された。

 詳細は不明だが、ベトナムでも金融機関に勤務する役職員には厳しい処罰規定があり、時折、こうした金融界の大物の逮捕劇をニュースで見ると、ベトナムの金融不祥事の歴史を思い起こさずにはいられない。

 そして、今も不良債権問題を抱えるベトナムの銀行セクターでは、そうした過去の苦い経験が後遺症となって現行の金融制度や実務に少なからず影響を与えている。今回のような金融業界の大物の逮捕劇が起こると、当面、銀行業界全体に引き締めの波が押し寄せるかもしれない。

1990年代に相次いだベトナムの金融不祥事

 ベトナムの金融セクターの歴史を振り返ると、1990年代に金融不祥事が相次いで発生し、国営商業銀行職員に対して有罪死刑が確定した事例がある。

 代表的な金融不祥事は旧ベトナム工商銀行(ICB)の「ミンフン・エプコ事件」だ。エプコ社のリエン・クイ・ティン社長が、ICBホーチミン支店副支店長とホーチミン市第3区人民委員会が管轄する国有財産を勝手に名義変更し、これを担保に銀行から巨額の資金調達を行った。

 この事件においては担保となった不動産の名義が不正に変更されるとともに、担保評価が実勢価格の約5~8倍となっていたと言われるが、銀行の内部検査ではICBホーチミン支店幹部が注意されただけで、具体的な改善措置が行われなかった。

 最終的に、検察が裁判所に提訴して1999年5月にホーチミン市人民裁判所にて裁判が行われ、被告77人、関係者300人、被害総額4兆ドン(約2.6億ドル相当)というベトナム最大の汚職事件となった。

 当時の国家予算が82兆ドン(約52.4億ドル相当)であり、ICBの総資産が27兆ドン(約17.2億ドル相当)であったことから、事件の規模の大きさが窺える。