日本人の多くはこれまで、「正当防衛」「集団的自衛権行使」「集団安全保障措置」などの言葉をよく理解せぬまま防衛問題を議論してきた。共通の正しい言葉で話し合うことが、今、何よりも重要である。
1. 用語の理解について
日本語・独語・露語では「正当防衛」(国内法上の用語)と「自衛」(国際法上の用語)を別の言葉で表現するが、英・米語では「self defense」の一語で両者の意味を表す。
例えば10月に発表された日米防衛協力指針(ガイドライン)中間報告中の日米協力例の1つ「訓練中の米艦艇が攻撃された場合の装備品等防護」は確かに「self defense」だが、これは日米艦隊を一体のものと見なした場合の「正当防衛」のことであって、日本語で言う「集団的自衛権行使」のことではない。
米海軍ではこれを「unit self defense」と言うそうで、1~2年ほど前から話題に上がっていたものだが、「これはどういう意味か」と聞いたら米語に詳しいある人が「あれは正当防衛のことですよ」と教えてくれた。
海上自衛隊も最近はこれを真似ており、隊法第95条の「武器等防護のための武器使用」を適用し、(通常は指揮関係のない部隊を含む)訓練参加部隊すべてを一体のものと見なし、その中の何れかの艦艇なり装備が被害を受けた場合には「正当防衛に当たる範囲において」相手に反撃し危害を与えてもいいようになっているらしい。まさにグレーゾーンにおける武力行使そのものである。
この例がなぜ「自衛」でなく「正当防衛」なのかについては聞いていないが、どうやら自衛の目的には「財産の防護」という項目はないのに、正当防衛の目的にはそれがあるためらしい。それにしても、この例が今や国際慣習法になっていると言う点についてはなお疑義が残る。
一方で、米国に対する日本の「集団的自衛権行使」というのは、米国がその国家主権を守るのに単独では対応できず、公式に日本政府に援助を要請し、これに応えて首相が自衛隊に出動命令(防衛行動命令)を与え、この命令に従って自衛隊が行動することである。
装備品なども国家主権の一部には違いないだろうが、米国の装備品を守るために首相が出動命令を発出するはずもなく、またこれは、とてもグレーゾーンなどで臨機に即応できる性質のものでもない。
7年前(第1次安倍晋三内閣)の安保防衛法制懇における研究4事例は、すべて集団的自衛権行使に関わるものとされていた。しかし、本年5月の最終報告書には、それとは別に(1)「グレーゾーンにおける武力行使」と(2)「集団安全保障措置での武力行使」に関わる事例が付け加えられた。
「グレーゾーンにおける武力行使」というのは明確に有事(戦争)とは言えない状態(すなわち、防衛出動下令前)における奇襲対処の話である。これは1978年に当時の栗栖弘臣統合幕僚会議議長が「防衛出動下令前に奇襲を受けたとき、自衛隊は超法規的行動を取らざるを得ない」と発言し事実上の免職となって以来、放置されてきた問題である。