カンボジアで「テレビ屋」をやっている。テレビを売っているのではないし、テレビを工場で作っているのでもない。カンボジアでテレビ番組を創っている。正確に言うと、カンボジアの国営テレビ局で、テレビ番組の制作について、カンボジア人スタッフに指導している。

 指導しているといっても、教室で教えているわけではない。OJTなので、彼らがこれまで作ってこなかったような分野の番組の企画を立てて、それを実現させて、彼らと一緒に創るという、いわば私が日本でやってきた番組プロデューサーの仕事と大差はない。それが私のここ2年ちょっとの仕事である。

「テレビ屋」としてやって来たカンボジアの実情

 以前、このJBpressでカンボジア初の「ロボコン」を国営テレビ局が開催するまでの経緯を連載させていただいた。その第1回目に、国営テレビ局がなぜ私みたいな人間から指導を受けなければいけないのかという実情を、さわりだけ分かりやすく書いたので、テレビ局の現状についてはそちらをご参照いただきたい(「正確な時計が一つもないテレビ局、想像できますか?」)。

ニューススタジオの機材は最低限のものしかない(筆者撮影、以下同)

 2012年6月にプノンペンに来て、国営テレビ局の現状を知った時には、本当に驚いたし、正直「途方に暮れて」しまった、と言うのが正しい。

 こんな乏しい機材でテレビ番組が創れるのか? テレビは放送されるのか?

 例えば、一昨年の9月から、この国営テレビ局で唯一の生放送の情報番組が毎朝放送されることになった。この番組がどのように立ち上げされたかは以前に書いたので、そちらを読んでいただきたいのだが、つい最近のこと、スタッフから「番組に対する視聴者の意見を番組のフェイスブックページで吸い上げたいのだが、どうしたらいいだろう」と質問された。

 ちなみに、カンボジアには日本のような視聴率というものは存在しない。視聴率を計る機械や組織がないからである。だから、フェイスブックに視聴者からの反響がどのぐらい来るかで、どの程度この番組が見られているかを把握しようという意図もあったのだ。

 「そんなものは簡単だ。番組内で番組のフェイスブックページのアドレスを記したテロップを流せばいいだけだ」と私は答えた。

 すると、そのスタッフはこう言った。

 「生放送でのテロップはどう出したらいいのか、誰も知らない。だからこの番組ではこれまでテロップを出したことがない」と・・・。

 腰が砕けそうだった。

 そう言われてみれば、番組でライブテロップ(生放送中にテロップを出すこと)を見たことがなかったなあと思う。