ハマス(パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織)のミサイルが止まらない。そして7月17日深夜、とうとうイスラエル軍はガザへの地上侵攻を開始した。国際社会が強く停戦を求めるにもかかわらず。

 この背景には、ハマスが運用する最新型のミサイルが、すでにイスラエルのほぼ全土を捉えていることがある。ネタニヤフ首相は、イスラエル領に通ずるガザの地下トンネルを破壊するために地上侵攻を命じた。テルアビブやハイファといったイスラエルの主要都市が、ハマスのミサイルの射程内にある限り、ネタニヤフ首相はその政治生命をかけて、イスラエル人の人命を守らざるをえないのだ。

 ガザのトンネルの徹底的な破壊をイスラエルが目論んでいる以上、7月8日に発動された「Operation Protective Edge」が終了するためには、相当の時間がかかるだろう。そして、ちょうど5年半程前の2008年12月27日から3週間以上続いた前回のガザ地上侵攻作戦であるキャスト・レッド作戦以上に、血生臭い戦いになるおそれも高い。

 1990年代にオスロ合意を受けて始まったガザの復興プロセスに直接関与した経験のある筆者にとっては、ガザのパレスチナ人と同様、底なしの無力感を感じるばかりだ。

 当然ながら私たちは、無辜のパレスチナ人に多数の死傷者が生じている人道上の悲劇を嘆き悲しむ。しかしながら、私たちには、そうした感傷に耽っている余裕はないのだ。むしろ今、眼前で展開されている戦いの意味をよく考えてみる必要がある。なぜなら、イスラエルとハマスの間のミサイル攻撃と抑止をめぐる、この「小さな」実戦は、私たちの未来の安全保障を考える上で貴重な教訓を提供してくれているからだ。

 このガザにおける現在進行形の物語は、中国のA2AD(Anti-Access/Area Denial:接近阻止・領域拒否)能力に対抗する抑止を考える上でも実に興味深い事例なのだ。すなわち、(1)ミサイル技術の向上がもたらす戦略的変化、(2)戦力上も非対称的なプレーヤーによる戦闘という2点において、ガザの悲劇は私たちに重要なメッセージを発している。本稿では、これらの点を読み解きつつ、なぜイスラエルが地上侵攻を行ったのか、そして、それをもたらした直接的原因であるハマスのミサイルの謎を明らかにしてみたい。

射程距離160キロの「ハイバル1」をイスラエルに発射

 最初の教訓は、ミサイル技術の向上は常に戦略的な変化を呼ぶという点だ。ミサイルの射程が延伸されれば、ゲームのルールもそれに応じて変わるのである。ウクライナ東部で撃墜されたマレーシア航空機MH17の悲劇とロシア製地対空ミサイルSA11は、そうした如実な例である。そしてガザの悲劇もまた、ミサイルのなせる仕業と言っても良い。