今、アメリカで『21世紀の資本論』と題する本が話題を呼んでいる。700ページ近くある専門書がアマゾン・ドットコムのベストセラー第1位になり、「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」はこんなカバーストーリー(Piketty's Capital: An Economist's Inequality Ideas Are All the Rage)を組んだ。
多くのデータや数式の並ぶトマ・ピケティ(パリ経済学院教授)の本がアイドル並みの人気を集める背景には、アメリカで深刻化する所得格差の拡大がある。上位1%の高額所得者がGDP(国内総生産)の20%以上を取る格差社会に対して怒る人々が、ピケティを「21世紀のマルクス」として崇拝しているのだ。
マルクスの「窮乏化の予言」は甦るか
マルクスは『資本論』で、資本主義の未来について矛盾する予言をした。第1巻では、資本が少数の資本家に集中して労働者が窮乏化して蜂起し、「収奪者を収奪する」未来を予言したが、未完の第3巻では「一般的利潤率の傾向的低下」を予想した。しかし利潤率が下がるなら賃金は相対的に上がるので、労働者が窮乏化することはあり得ない。
20世紀には、利潤率が上がるとともに労働者も豊かになり、マルクスの予想はどっちも外れた。しかし今、マルクスが第1巻で予言したように労働者は窮乏化している、というのがピケティの主張だ。図のように欧米の所得格差は1970年代から拡大し始め、今では上位10%の所得がアメリカでは50%近くを占める。
ピケティの本が大きな反響を呼んだのは、「資本主義で格差は縮小する」という定説をくつがえしたからだ。これまでは成長に伴って資本家も労働者も豊かになると考えられ、戦後の各国のマクロ経済データもそうなっていた。
しかしピケティは、1930年から70年ごろまでの平等化の傾向は、大恐慌や戦争で資本が破壊されたために起こった例外であり、19世紀から資本家と労働者の格差は拡大してきたと主張しているのだ。