アジア諸国では、18世紀後半、英国により植民地化されたインド、その後、ビルマ(現ミャンマー)、英領マレー、英領北ボルネオといった東南アジア地域、セイロン(現スリランカ)、さらに香港など各地にイギリス植民地が形成された。
当時、現地の慣習が尊重されることが前提にあったとも言われるが、基本的には宗主国たる英国の法を基軸とする植民地法が形成された。そのため、今でも旧英国植民地は法制度が整備されているという印象がある。
しかし、そうした旧英国植民地でも、現実には他の途上国と同様、ルールの実効性や法執行メカニズムの脆弱性等の問題はあるのではないだろうか。本稿では、事例として筆者が体験しているマレーシア、ミャンマー、インドについて言及したい。
日常の契約事務でストレスが溜まるマレーシア
マレーシアは100年以上にわたる英国支配を受けたため、英国法の影響が強く、アジア諸国の中でも法体系がしっかりしているという印象が一般的だ。
マレーシア連邦憲法第160条では、「法(law)」の定義につき、「連邦国家またはその一部において適用される限りにおいてコモン・ロー」が含まれている。また、1956年民事法(1972年改正)では、マレーシアに適用可能な英国法の範囲について明文規定を設けている(第3条1項、第5条)。
しかし、立派な法体系が存在する一方で、実際に生活してみると日常の些細な契約事務ミスにいらだちを感じることが多い。そのような類いの些細なことは意外に大きなストレスを感じるものだ。以下に筆者が実際に経験した例をご紹介する。
●止まらない電話料金の誤請求
自宅にインターネット電話を導入するため契約したとき、電話会社のマネジャーから、電話・インターネット基本料金199リンギ(約6400円)プラス映画配信サービス50リンギ(約1600円)だが、キャンペーンで50リンギは無料となる、との説明を受けて契約に署名した。
しかし、契約の翌月から6カ月連続で50リンギを加算した誤った請求書が届いている。毎月、誤った請求書が届くたびにカスタマーセンターに電話し、都度、「システムの関係で1〜2カ月かかるが請求金額を訂正の上、支払い済みの超過分は新しい請求書の請求金額から差し引く」との説明を受けてきたが、未だに訂正されていない。