1 初めに

 最近の国際政治・軍事情勢は、冷戦時代を思わせるものがある。新冷戦が到来したという識者もいるほどだ。本稿では、最近の国際軍事・政治情勢を瞥見し、今がいかなる時代であるを推定し、日本はいかに対応すべきかを考察することとする。

2 国際政治・軍事情勢で気になる特異行動

南シナ海でベトナムに強硬姿勢、中国の狙いは 専門家が分析

西沙諸島でベトナムの艦船に放水する中国の警備艇〔AFPBB News

(1)中国の覇権主義的行動

 中国の覇権主義的行動には驚かされる。中越間で領有権争いが続く西沙諸島(パラセル)海域では、5月初めに中国が石油の掘削作業を始めたと発表して以降、中国船によるベトナム船に対する体当たり衝突などが相次いでいる。

 5月25日には、ベトナム漁船が多数の中国船に取り囲まれて沈没するという重大事案が勃発した。沈没は初めてだ。両国関係がさらに悪化する可能性もある。あろうことか、5月27日には、掘削を第2段階に進めると発表したのである。相手が弱いとみると嵩に懸ってきているのが分かる。

 フィリピンとの係争が激しい南沙諸島においても、着々と実効支配を強化し、両国艦船が睨み合いを続けるという状況が起きている。いかせん、比の能力は極めて脆弱であり、実効支配が着々と進展する可能性もある。

 中国は、関係国の批判を一顧だにせず、全く根拠のない9段線なるものを持ち出して、盗人猛々しく自らの領域であると言い放つ。

 東シナ海においても、我が国領空を含む空域に、防空識別圏を独断で設定(2013/11/23)し、尖閣諸島に対する領海侵犯や接続水域航行を常態化し、既成事実化を図っているかに見える。中国機に対するスクランブルも急増している(ちなみに平成22年の95回から、平成25年は415回と急増した)。

 5月24日には、警戒監視中の自衛隊機2機に異常接近する事態も惹起した。偶発事態も想定される事態であり、これは正に軍事的威嚇そのものであると断じるべきだ。

ロシア軍基地設置10周年で記念式典 キルギス

SUー27戦闘機(写真はロシア軍のもの)〔AFPBB News

 その中国が本音を垣間見せたのが、中国が議長国となっているアジア信頼醸成措置会議(CICA)で採択された上海宣言である。

 同宣言には、アジアの新たな安全保障の枠組みを構築していくことが盛り込まれた。これは、米国のアジア重視のリバランス戦略に対抗し、地域の安全保障を主導する姿勢を鮮明にしたものと考えられる。

(2)ロシアの、かってのソ連を彷彿とさせる行動

 財政破綻に直面し、ロシアへのガス料金未払い問題を抱えるウクライナが2007年のオレンジ革命以来混乱し、欧米とロシアの発火点となりつつある。

 近々のウクライナ政変により、親露ヴィクトル・ヤヌコビッチ政権が崩壊し、2月27日に親欧米の暫定政権が発足した。これに対し、クリミアは反発し、ロシアはウクライナへの軍事介入を承認し、クリミア自治共和国を実効支配、3月18日クリミアはロシアに併合された。

「チョコレート王」が勝利宣言、ウクライナ大統領選

ペトロ・ポロシェンコ氏〔AFPBB News

 東部2州では親露派武装集団と暫定政権軍が武力衝突し、大統領選の投票も出来ない状態が惹起した。5月25日行われた大統領選は新欧州派のチョコレート王と称されるペトロ・ポロシェンコ氏が圧勝、当選を確実にした。

 暫定政府軍は、重い腰を上げて親露派武装集団の大規模な排除作戦に乗り出した。一方、ロシアは、大統領選の結果を受け入れ、対話の用意があると発表した。

 ロシアは、クリミアを併合したことで、当面の目的を達したのか、これ以上欧米を刺激することは得策でないと判断したのか、東部2州への軍事介入・併合までは控えているようだ。

 当面、ウクライナ東部に対する軍事的・経済的影響力を行使しつつ、親露派の勢力拡大を狙いつつ、中期的には連邦制を視野に入れているのではないかと思える。