人は、できるだけ自分の好きなことや得意なことで勝負をした方がいい。不得意なことや嫌いなことを無理してやっても、なかなかうまくいかないものだ。
だけど、自分の得意なことというのは刀と同じで、切れ味が鈍らないようにいつも研いでおかなければならない。たまにはズバッと斬って切れ味を試さないと、なまくらになるってもんだ。
ものづくりで大事なのはひらめきだ。おれにとっての刀は、このひらめきなんだ。
ひらめきというのは気まぐれでわがままで、いつ生まれてくるのか分からない。ただ一つ言えるのは、快適な精神状態の中から生まれくるということだ。ストレスがたまっている状態では、素晴らしいひらめきはなかなか出てきにくい。
よく、ストレスを解消しようとゴルフや麻雀をする人がいるが、やっている最中は気分を紛らわせることができても、終われば再びストレスがたまってしまう。心の中の煩わしさが根本的には解消されないんだな。小手先の遊びではね。
おれはストレスがたまると、倍の量の仕事をしてみたり、別の分野の仕事をするんだ。ものづくりでアイデアが行き詰まれば人と会って情報収集をしたり、講演をしたり・・・。すると不思議なことにストレスは自然になくなるんだ。
ウソだと思ったらやってごらん。仕事のストレスは遊んで消えるものじゃない。仕事をすることで解消できるものなんだよ。
人は「遊び」の中で自主的に道具をつくってきた
ものづくりは緊張感と刺激の連続で、その中に充実感や達成感が潜んでいる。この充実感や達成感というのはスポーツや勝負事に通じているんだな。
そもそも、ものをつくる仕事ってのは、智慧を働かせる遊びのようなものだ。だから楽しいし、飽きることがない。音楽も絵画も料理にしても、何かをつくる楽しみは、全ては遊びという要素につながっている。
ものをつくる能力は、「遊び」といった一見合理的でないことから育まれる。人は遊びながら、いつしか自発的に何かをつくるという習性を、太古の昔に身につけたんだ。
今までにない、まったく新しいものをつくる時には、想像力と感性、智慧、ひらめきがものを言う。時には人智を超えた見えない力がひらめきをもたらしてくれることもある。
話がちょっと横道にそれるが、森羅万象というのは人智を超えた法則で成り立っているもので、例えば、水は氷や水蒸気となって循環を繰り返すし、月の重力は地球に潮の満ち引きなどの影響を及ぼす。
月は地球の周りを自転しながら回っているんだけど、月はいつも同じ半球を地球に向けている。だから地球からは、ウサギが餅をついている面しか見られない。月の裏側は見ることができないってわけだ。