ウクライナの首都キエフで野党勢力がビクトル・ヤヌコヴィッチ前大統領を権力の座から放逐してから2か月余が経過したが、混乱は全く収束する兆しを見せていない。
特に4月以降、ウクライナ東・南部諸州ではロシア軍関係者とおぼしき工作員による扇動や「ドネツク人民共和国」なる勢力がドネツク州内政府系施設を占拠するなど、不安定な状態が続いている。
4月17日にジュネーブで結ばれた4者合意は有名無実化しており、5月25日の大統領選挙をウクライナ全土(クリミアを除く)で成立させたいキエフの政権と、選挙による政権権威づけを嫌う勢力との衝突が各地で激化している。
事前調査によれば、大統領選挙ではペトロ・ポロシェンコ候補の当選が確実視されており、焦点は選挙そのものが平穏に実施されるかどうかに絞られている。
大統領選挙の意義
5月25日に行われる大統領選挙は、権威に乏しい現政権にとって極めて重要である。2月21日に結ばれたヤヌコヴィッチ大統領(当時)と野党三党との協定は、ヤヌコヴィッチ氏の首都脱出により反故にされ、野党側は憲法が定める弾劾手続きなしに1本の法案で、大統領解任と5月25日の大統領選挙実施を決議した。
本措置については、違法性阻却事由によって正当化できないわけでもないが、ウクライナ憲法が規定する任期前の大統領職務停止は4つ(辞職、健康状態、弾劾、死亡)に限定されているため、憲法違反との見方が強く、ロシア政府やクリミア、一部勢力によって分離・独立を正当化する根拠にされてきている。大統領選挙をウクライナ全土で行うことができれば、新しい指導者の権力の正統性が確立されることになる。
さらには、東・南部の有権者が投票に参加すれば、ウクライナ国家の一体性が支持される証拠ともなる。
4月中に実施されたいくつかの社会調査の結果によれば、ウクライナ東・南部住民の過半は、ロシア語使用が脅威に晒されていると思っておらず、ロシア語話者保護のためのロシア政府の派兵を支持しておらず、連邦制より単一制国家を志向している。
目下の情勢下では世論は流動的であるが、仮に上記の調査結果に沿うような候補者への投票が行われれば、東・南部の「ロシア系住民が抑圧されている」という言説が払拭されることが期待できる。
このような選挙はロシア政府が描くシナリオから外れたものである。ロシア政府は一貫してウクライナの「連邦」化を、ウクライナの頭ごなしに米国、欧州連合(EU)側に強く求めている。