黒川清・日本医療政策機構代表理事監修

1. 台風ヨランダ

 2013年11月8日、非常に勢力の強い台風ヨランダがフィリピンを襲った。ヨランダは、サマール島、レイテ島、パナイ島などに上陸し、セントラル・ヴィサヤ地域を中心に、大きな被害をもたらした。死者数は約8000人、被災者数は1600万人に上った。

超大型の台風30号、フィリピン横断 被害状況把握できず

台風が上陸したセブ島で非難する親子〔AFPBB News

 フィリピン政府は非常事態宣言を発令し、近隣諸国からも緊急支援が迅速になされた。筆者は11月23日にフィリピンに入国し、国際医療支援団体の Project HOPE スタッフとして、現地での支援先の選定や関係団体との調整など、コーディネーション業務にあたってきた。

 いったんの一時帰国を除き、2月下旬まで多くの時間をフィリピンで過ごし、クリスマスも年末年始もフィリピンで迎えた。

 本稿では、フィリピンにおける国際医療支援活動を具体的に振り返り、今後、どのような国際医療支援が提供可能か、次の災害支援につなげるべく、議論を深めたい。

 なお台風ヨランダは、日本では台風30号、国際的にはハイアンと呼ばれているが、ここでは、現地および支援団体などで最もよく使われる現地名ヨランダと呼称する。

2. 災害とともにやって来る数多くの国際支援団体

 世界的に注目を浴びる災害が発生したとき、好むと好まざるにかかわらず、世界各国から災害地にやって来るものとして、国際支援団体がある。

 各国政府が派遣するレスキュー隊や緊急医療支援チームをはじめ、国境なき医師団やアメリケア、Project HOPE といった世界各地で支援を展開する民間の国際医療支援団体、さらには、小さなNGO団体や宗教団体など、あらゆる種類の支援団体や組織が集まることとなる。

 「Disaster Diplomacy(災害外交)」という言葉もあるほど、政府・民間を問わず、各国や各国組織は積極的に災害地への支援に乗り出す。

 このような状況は、時として、受け入れ地域のキャパシティーを超え、かえって現地の負担になったり、各団体同士の横のつながりが不足し、必要な支援が現場に行き届かない状況を生み、医療人類学者などを中心にして、国際人道支援のあり方について懐疑的な見方も多い。

 一方で、災害地に支援が必要なことも事実であり、特にフィリピンなど発展途上国の場合、海外からの支援を期待していることも多い。国連機関OCHAによるものをはじめ、災害時の調整機能も向上しつつあるだろう。まずは、この調整機能について、医療支援の視点から、フィリピンの事例を見てみたい。