それは製糖業界の常識を破り、従来の製造順序をひっくり返して「サトウキビジュースから先にアルコールを取り出し、その残りで砂糖を作る」という「逆転生産プロセス」というものだ。この方法を使うと、これまで不適とされていた砂糖含有率は低いが収量の多い品種を使うことができ、砂糖も燃料も従来よりも増産できるという。
なぜ、アサヒに製糖の常識を覆す発想ができたのか、そもそも、なぜサトウキビの研究に乗り出したのか? イベント終了後にアサヒグループホールディングスの豊かさ創造研究所・バイオエタノール技術開発部の主任研究員・野村智彦さんに話を聞いた。
― アサヒグループがバイオエタノールの研究に取り組んだきっかけは?

野村智彦氏(以下、敬称略) 地球温暖化や新興国の急成長によるエネルギー問題・食糧問題がクローズアップされ始めた2000年代初頭、新規事業につながる研究を行うため、アサヒビールの研究所にR&D本部が発足しました。
飲料アルコール以外の食・健康・環境の分野で研究を進めることになり、バイオエタノール研究が提案され、研究が始まりました。バイオエタノールは発酵により燃料を精製する技術なので、主力商品のビールで培った発酵技術が活かせるのではないかという読みがありました。
― サトウキビやトウモロコシを原料とするバイオマスエネルギーには、1つの作物を食料に使うのか、燃料に使うのかという食料競合の問題があります。
野村 まず、私たちが取り組んだのがサトウキビの品種改良です。2002年から独立行政法人・九州沖縄農業研究センターと共同で、多収性品種の開発に取り組みました。2005年度から5年間沖縄県の伊江島で栽培試験を重ね、同じ面積で2倍の収穫が可能な「高バイオマス量サトウキビ」の開発に成功しました。

― 2倍の収穫ができれば、当面、食料競合の問題は回避できるということですね?
野村 実は、そう簡単ではないのです。サトウキビには「ショ糖」と「還元糖」という2種類の糖が含まれます。サトウキビジュースからショ糖を取り出して結晶化させたものが砂糖になります。残った糖蜜には、ショ糖の残渣と還元糖が含まれていて、これを発酵させるとアルコールになります。どちらの糖もアルコールの原料になりますが、製糖工程においては、還元糖はショ糖の結晶化を阻害するジャマモノ物質なのです。