7月13日、日本の大手自動車メーカーが、小型乗用車「マーチ」を8年ぶりに全面改良して発売した。タイの工場で生産して逆輸入する形が取られるが、国内メーカーが主力車種を海外生産に切り替えるのは、今回のケースが初めてである。最低価格は99万9600円で、100万円を下回った。
別の大手自動車メーカーは、英国の工場で現在生産している中型セダン「アベンシス」の日本への逆輸入を検討している。また、さらに別のメーカーは、新型の低価格車をタイの工場で生産し、逆輸入する方針である(7月13日 朝日)。
衣料品、加工食品、家電、パソコンなどに続いて、自動車でも、海外からの逆輸入品が徐々にシェアを上げていく流れが見え始めた。
むろん、上記のような各種自動車メーカーの逆輸入戦略の中には、為替相場の円高ポンド安を生かす狙い、あるいは欧州市場が低迷する中で英国工場の稼働率を引き上げる狙いなど、短期的な動機も含まれている。しかし、大きな流れとして見た場合、本邦企業の生産拠点の海外シフトに代表される、企業活動にかかる「遠心力」の増大、いわゆる「空洞化」の問題が、根底にある。筆者はこの問題について、内閣府が実施した「企業行動に関するアンケート調査」をもとに、すでに別のリポートでコメントした(5月12日作成「企業活動の『遠心力』増大」参照)。ここでは、中小企業の動きを含めた追加のコメントを記しておきたい。
中小企業白書(2010年版)によると、中小企業が国際化(直接輸出、間接輸出、直接投資、業務提携)を行うことになったきっかけに関する、2009年11月に行われたアンケートへの回答内容は、以下の通りである(複数回答)。
(1)「自社製品に自信があり、海外市場で販売しようと考えた」(38.0%)
(2)「取引先の生産拠点が海外に移転した」(23.3%)
(3)「コスト削減要請に対応するため海外生産の必要性を強く認識した」(22.2%)
(4)「取引先に勧められた」(21.7%)
(5)「国内の販売が伸び悩んだため、海外市場に打って出ようと考えた」(21.0%)
(6)「同業他社の成功例に触発された」(4.9%)
(7)「取引金融機関から勧められた」(0.6%)
(8)「その他」(15.0%)
回答(1)について中小企業白書は、「中小企業が拡大する国外の需要を自らの成長に取り込んでいくという意識が高まっていることがうかがえる」とコメントしている。回答(5)では、一層明確に、縮小を続ける国内市場に見切りをつけて、海外市場に活路を見出そうとする中小企業の姿が示されている。また、製品納入先である大企業との関係から中小企業が追随して海外に進出していく流れが、回答(2)(3)から浮かび上がる。
中国のいくつかの工場で賃金引き上げを要求する動きが発生したため、内外の賃金格差縮小から企業の海外シフトには歯止めがかかるのではないかという、淡い期待を抱く向きもあるだろう。だが実際には、そうはなるまい。コスト面では、例えば日本の大手カジュアル衣料メーカーがバングラデシュに工場を作って生産を行っているように、より賃金が安い国へと「外-外」で拠点をシフトしていく流れが、すでに見え隠れしている。
また、アジアをはじめとする海外諸国には、低コストに着目した企業の生産拠点であると同時に、あるいは今後はそれ以上に、有望な販売先(フロンティア市場)としての重みがある。
もはやパイが拡大することがなくなり、人口減・少子高齢化の着実な進展から先行きはパイの縮小が加速しかねない、国内消費市場。大企業のみならず中小企業においても、海外に企業活動の軸足を移そうとする動きが強まっており、これは、法人税率を引き下げれば止められるといった筋合いの話ではなかろう。
自動車部品メーカーの役員は、「政府の税制優遇だけで、企業の投資戦略が変わるか、疑問だ」とコメントしている(5月17日 朝日)。すでに述べたように、筆者もまったく同じ意見である。さらに、同一人物かどうかは不明だが、上記新聞記事は自動車部品メーカー首脳による、以下のようなコメントで締め括られていた。
「タイから逆輸入する新型が日本の消費者に受け入れられれば、空洞化は止められないだろう」